副業での収入が欲しいと思っているものの「勤務している会社の副業規定が、どうなっているのかわからない」という方は少なくありません。

そこでこの記事では、副業規定の確認方法や、副業によって懲戒処分になってしまった例などを紹介します。また、企業担当者向けに、副業規定を整備する際のポイントも解説しています。

副業をはじめようか迷っている方、あるいは副業によるデメリットについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

そもそも副業とは?兼業との違いを解説

副業に関する不安を解決する前に、そもそも副業の定義とはどのようなものかについて解説します。また、副業と似た言葉に「兼業」がありますが、この二つの違いも見ていきましょう。

副業は一般的にアルバイトなどのかけもちをすること

副業とは、副収入を得るために、本業の仕事とは別に行う仕事のことを指します。

例えば、本業が終わった後や、休日を利用して家庭教師や塾講師などをするケース、あるいは日雇いのアルバイトで稼ぐなどが該当します。

また、収入を増やすことを主な目的とするのではなく、本業では得られないスキルを習得するため、もしくは人脈を広げるといった目的のために他社で働くことを副業と定義するケースもあります。

あくまでも、本業のかたわらに仕事を行うことを副業と考えるとよいでしょう。

兼業は一般的に個人事業主として働くこと

一方で、兼業は給与所得ではなく、個人事業主として事業所得を得ることを指す場合が多いです。明確な定義があるわけではありませんが、副業と比べて事業性が高く、本業と同等の時間や労力をかける仕事が兼業といわれています。

例えば、会社に勤務するかたわらで小売業を営み、本業並みの収入を得ているケースなどを兼業と考えてください。

個人事業主と聞くと、小規模な会社を経営しているとイメージする方が多いと思いますが、その中にはフリーランスで働いている方も含まれます。そのため、世の中には想像している以上に個人事業主として活躍している方が存在しているのです。

副業よりも、本格的に第二、第三の仕事をはじめてみたいと考えている方は、税務署に開業届を出し、個人事業主として仕事を請け負うことも視野に入れるとよいでしょう。

関連記事:副業に開業届は必要?判断基準と出し方、注意点を解説

就業規則で副業規定を確認しよう

勤務している会社が副業について、どのような規則を設定しているのかを確認したいときは、就業規則を見ることになります。副業をはじめるときは、必ず事前に確認しておきましょう。

副業と就業規則について

副業を推奨している企業は増えていますが、その全てが副業に前向きというわけではありません。

たとえアルバイトであってもダブルワークを禁止している場合もありますし、同業種の副業は禁止するなどの条件を定めているケースもあります。

また、禁止まではしていないものの、事前に許可を取る必要がある場合など、企業によって副業に関する規則はさまざまです。

なお、就業規則に従わずに副業をしていることがバレてしまった場合には、それ相応のペナルティが発生してしまいます。安易に自己判断で副業をはじめることは、リスクの高い行動だということを理解しておきましょう。

副業禁止に法律上の拘束力はない

多くの会社がそれぞれで副業に関する規則を定めていますが、実は法律に会社員の副業を制限するものはありません。

最高法規である憲法でも、会社員の副業を禁止する内容はありませんので、どちらかといえば副業の自由は保証されているのです。

そのため、企業が副業禁止という規則を設けていても、法的な拘束力まではないのが現状です。もちろん、雇用契約を結んでいる以上は、契約上で決められた時間内に副業を行うことはできませんが、勤務時間外であれば法律上では自由に副業を行うことができるのです。

しかし、会社の規則を無視していいということではありませんので、あくまでも事前確認を行ったうえで副業をはじめることをおすすめします。

公務員は基本的に副業が禁止されている

会社員の副業に関して法的な拘束力はありませんが、公務員の場合は公務員法によって副業が禁止されています。

国民に対する奉仕者でなければならないという前提があるため、営利目的の副業は控えなければならない立場なのです。

ただし、公務員であっても、全ての副業が禁止されているというわけではありません。投資や自給目的の小規模農業などといった、限られた副業に関しては公務員であっても認められています。

また、一部の地方自治体では、公務員の副業を解禁する動きが進んでいます。今後は公務員であっても、多様な副業を行いやすい環境が整っていくと予想できます。

関連記事:公務員の副業はどこまでできる?注意点、バレたときの処分も解説

副業が禁止される主な理由

法律で禁じられていない行為であるのに、企業によっては副業を禁止していることが、理に反しているように感じる方もいらっしゃるでしょう。

実は、会社が従業員の副業を制限することには正当な理由があります。ここからは、会社が副業を禁止する主な理由について解説します。

本業に支障が出る

副業にかける労働時間が長すぎると、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積してしまいます。副業に力を入れるあまり、本業でミスを頻発するような事態は避けなければなりません。

そのため「本業の負担にならない程度であれば」と、従業員の自己判断に任せる企業もあれば、最初から本業に支障が出るリスクをカットしてしまおうと考える企業もあります。

特に、たった一つのミスが大きな事故につながる可能性がある職業などでは、副業を禁止する傾向も高くなるでしょう。

加えて、健康障害リスクが高まるとされる「過労死ライン」という言葉もあるように、長時間労働が心身に与える影響は大きなものです。そのため、時間外労働となる副業を禁止する企業があっても不思議なことではありません。

情報漏えいのリスクがある

同業他社に社内の極秘情報が漏れてしまうリスクを制限するために、副業を禁止する場合があります。

社則によってどれだけ厳しい罰則を設けたとしても、情報漏えいのリスクを完全になくすことはできません。重要な情報を扱う職種であればあるほど、簡単には副業を認めることはできないでしょう。

また、場合によっては同業他社での副業だけを禁止するケースもあります。副業している本人は、情報を漏らしている意識はなくとも、ちょっとしたことが情報漏えいにつながってしまう危険性があるからです。

社会的信用を損なう恐れがある

従業員が副業を通じて犯罪に関与してしまった場合、規模によっては全国的なニュースになる可能性も考えられます。

社名が、不名誉な内容で全国的に有名になってしまえば、確実に会社の業績に影響が出ます。最悪のケースでは倒産に追い込まれることも考えられるでしょう。

もちろん、全ての副業が犯罪行為につながるということではありません。しかし、知らずに違法行為に加担してしまったり、たとえ違法でなかったとしても、社会的信用を失うリスクのある仕事に関わってしまったりする可能性はゼロではありません。

企業の信用を守るためにも、副業を禁止しなければならない場合があります。

副業の就業規則はモデル就業規則に記載されている

副業に関する規則は、企業がゼロから作成しているとは限らず、厚生労働省がホームページ上で公開している「モデル就業規則」を参考にして作られてるケースも多いです。

ここでは、厚生労働省のモデル就業規則の内容について確認していきましょう。

モデル就業規則での副業規定の記載例

厚生労働省が一般公開しているモデル就業規則は、副業に関する規則だけに限ったものではなく、各企業の就業規則を作成するときに参考にするためのものです。

就業規則は、従業員数が常に10人以上となる事業所であれば、必ず作らなければならないと法律で定められています。

では実際に、モデル就業規則にはどのような内容が書かれているのでしょうか。

第3章 服務規律 (遵守事項)第11条において、まず3項に「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」という記述があり、業務時間中に副業を行ってはいけないことが示唆されています。

加えて4項に「会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと」、5項に「在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先などの機密を漏えいしないこと」などという記述があります。

特筆して「副業」という言葉が使われているわけではありませんが、企業が副業を禁止している理由となっている内容が記載されていることがわかるでしょう。

民間企業では服務規律の部分に多い

モデル就業規則において、副業に関係があると考えられる内容が服務規律の箇所に記載されているためか、民間企業においても服務規律の部分で副業に関する規定を詳しく書いているケースが多く見られます。

しかし、モデル就業規則と同様に、はっきりと「副業」という言葉が使われていない可能性もあります。その場合、自己判断で副業がOKだと考えるのはリスクを伴います。

そのため、もし就業規則を確認しても、副業を許されているのかどうかの判断が難しい場合は、上司や人事部、総務部などに直接確認を取ることをおすすめします。

副業禁止の企業に勤務しているのに副業していることがバレてしまった場合のリスクを考えると、安易に自己判断することは避けるべきです。

副業がバレた際の懲戒について

副業をしていることが会社にバレてしまった場合のペナルティは、就業規則に記載があるかどうかによって違いがあります。具体的にどのような違いがあるのか、確認しておきましょう。

副業禁止についての記載がない場合

就業規則に副業を禁止するという内容が明確に記載されていないのであれば、副業をしているという事実だけで懲戒処分になる可能性は低いです。

しかし、前述したモデル就業規則でもわかるように、業務時間中に副業をした場合や、副業中に会社の情報を漏らしてしまった場合、また会社の信用を失墜させるような行為があった場合には、当然ながら懲戒処分の対象となってしまいます。

つまり、明確に副業が禁止されていない場合でも、就業規則に記載がある内容に関しては遵守しなければならないということです。

あくまでも本業に影響が出ない範囲で、節度ある行動を取りながら副業を行ってください。

懲戒を受ける可能性のある場合

副業を禁止することが就業規則に記載されている企業に勤めているのにも関わらず、副業をしてしまっていた場合には、バレた時点で懲戒処分となる可能性が出てきます。

しかし、副業していたことそのものが直接的な原因となって解雇された事例はあまり多くありません。

最初は注意勧告からはじまりますが、それでもなおその従業員が副業を続けた場合などは、減給や降格、最悪の場合は懲戒解雇となるリスクが高まっていきます。

ただし、副業禁止の企業であっても、投資やフリマアプリなどでハンドメイド作品を販売する程度であれば認めている場合もあり、どこからを副業と見なすかは企業によって違いがあります。

事前に確認を取っておけば、懲戒処分となるリスクを減らすことができますので、「バレないだろう」と安易に判断することは避けましょう。

【企業担当者向け】就業規則に副業規定を整備する際のポイント

ここからは、企業担当者に向けて、就業規則を作成するために意識すべきポイントを紹介します。従業員にわかりやすい就業規則を作成して、不和が起こらないようにルールを明確化していきましょう。

副業の制限や禁止の規定を明確にする

正当な理由なく、従業員の副業を全面的に禁止することはできません。

しかし、本業に支障をきたす可能性があるケースや、企業の利益を害する危険性があるケースなどに関しては、規定を設けることができます。

従業員が規則を読んだときに、禁止されている副業がどのようなものかを判断できるよう、わかりやすいルールを定めましょう。

モデル就業規則においては、自社の情報を漏らすような行為や、企業の信用を損なうようなケースで制限をかけています。規定を設けていなければ、何かあった際に対象の従業員をすぐに懲戒処分にすることはできませんので、規定を明確にしておくことが重要です。

副業は許可制から届け出制になってきている

以前は多くの企業が、副業の許可制(原則禁止)という形式を取っていましたが、最近では流れが変わってきています。

国が副業を推奨していることもあり、企業が副業を禁止することに対して、多くの人が違和感を抱くようになってきているからでしょう。

また、法律で副業は禁止されていないという点から考えても、勤務時間外に行う活動を企業側が必要以上に制限するというのは、今の時代に即しているとはいえません。

時代の変化にあわせて、基本的には副業を禁止していた企業も、届け出を出せば認めるというシステムに変更しはじめています。

副業規定を守らない従業員への対応や懲戒内容を決める

ペナルティの重さは、あくまでも規定に違反した内容に対して適切なものでなければなりません。

副業をしていただけで、従業員を即日解雇するなどのような重いペナルティを課してしまうと、不服に感じた従業員との裁判に発展するといった大きなトラブルになりかねません。

事象が予想できるケースは、どのような懲戒処分を行うのかを決めておき、かつ、そのルールを従業員がすぐ確認できるようにしておくことで、トラブルを避けることができます。

企業が被った損害に見あう、違反した従業員も納得できるようなルールを作っていくことを心掛けてください。

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を確認する

適切な副業規定を作成しようにも、全く知識がない状態から規則を作り上げることは簡単ではありません。また、国が副業を推奨しているという背景を無視したルール作りを行うことも避けるべきでしょう。

公務員であれば法律で副業が制限されていますが、会社員の副業は禁止されていないということを前提としたうえで就業規則を作る必要があります。

厚生労働省では、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、2022年7月8日には最新の改訂版を公開しています。これにより、労働時間や健康管理について明確なルールが作成されました。

自社の就業規則にもこのガイドラインを反映させるようにしましょう。

副業規定のサンプル

副業規定を作成するときのサンプルとして、厚生労働省のホームページにあるモデル就業規則を活用するとよいでしょう。

しかし、前述のとおり、モデル就業規則には副業という言葉は使用されていません。副業規定では、副業や兼業という文言を使ったほうが従業員とのトラブルを避けられるようになります。

また、厚生労働省以外でも副業規定のサンプルが一般公開されているので、そちらを活用するという手もあります。もしくは、社労士などに相談して、自社に合った副業規定を作成してもらう方法もあります。

副業規定を適切に定めないまま放置してしまうと、規定に違反する従業員が現れたときに困ってしまいますので、十分に注意してください。

副業をはじめる前に副業規定を確認しておきましょう

公務員の副業は法律で制限されていますが、会社員の副業に関する法律はありません。

だからといって、全ての場合において自由に副業をしてよいというわけではなく、副業規定において副業が禁止されている企業に勤務している場合には、会社に無断で副業していることがバレてしまうと懲戒処分を受ける可能性があります。

国が副業を推奨していることから、従業員の副業を認める企業も増えていますが、本業に支障をきたすような働き方をしてはいけません。

また、情報漏えいや、企業の信用を損なう可能性のある行動は就業規則で禁止されているケースがほとんどですので、副業を開始した後の行動にも十分に注意しなければならないということも忘れないようにしてください。