会社員の場合、社会保険は給与から天引きされるため、ふだんはあまり意識しない方が多いですが、副業となると副業先での社会保険の取り扱いについて不安になる方が少なくないようです。
そこでこの記事では、会社員と個人事業主で加入する社会保険の違いから、副業で社会保険に入る際のポイントを詳しく解説します。副業の社会保険に関して理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
加入条件を満たしていれば本業と副業のそれぞれの職場で社会保険に加入する必要がある
昨今では、本業にくわえてパートやアルバイトとして働いている方が多くいます。この場合、社会保険への加入条件を満たしていれば、本業と副業の両方で社会保険に加入しなければなりません。
双方の会社で社会保険に加入すると、社会保険料は双方の給与の割合で算出され、それぞれから天引きされます。
また、法律では加入条件を満たすと雇用形態に関係なく、社会保険への加入が強制されると定められています。
なお、健康保険証に関しては、本業と副業の会社で二枚必要になるということはありません。自身がメインとしている会社から、健康保険証を発行してもらえば問題ありません。
社会保険の加入条件
ここでは、社会保険の加入条件について見ていきましょう。
- 社会保険の加入義務がある職場に勤務している
- 健康保険は75歳未満/厚生年金保険は70歳未満
- 1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上
- 常用的使用関係がある
また、2016年10月より、パートやアルバイトなど短時間労働者の場合も、一定の要件を満たすことで社会保険の加入対象となりました。派遣労働者についても基本的に同様の条件となるため、気になる方は加入条件に該当しているか、事前に確認しておきましょう。
- 週の労働時間が20時間以上
- 月給88,000円(年収106万円)以上
- 1年以上継続して雇われている、又は雇われる見込みがある
- 学生以外である
- 従業員が501人以上(500人以下でも会社と労働者が合意すれば社会保険に加入可能)
社会保険とは?
社会保険とは、私たちが日々生活を営んでいく中で起こりうる病気や怪我などのさまざまなリスクに備えて、加入することが強制されている公的保険です。
国や公的団体が保険者として、被保険者である私たちに何かあったときに給付をしてもらえるという仕組みになっています。
私たちの医療費などは、私たちが支払った社会保険料から捻出されるため、ふだん病院に行っても診察料や治療費の全額を負担する必要がないのです。
社会保険は5種類の保険の総称で、主に会社の従業員や公務員を対象としている「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」が狭義の社会保険と呼ばれることがあります。
この場合、「労災保険」と「雇用保険」の二つは労働保険と呼ばれています。
会社員が加入する「社会保険」
ここでは最初に会社員が加入する「社会保険」について紹介します。実は会社員と個人事業主では加入する社会保険が異なるため、その違いを把握できるようにしておきましょう。
健康保険
健康保険は私生活で病気や怪我をした際に保障される医療保険を指します。病院に行く際には健康保険証を持参するため、ふだんの生活で特に馴染み深い社会保険だと言えます。
健康保険があることで、病院の診察などを原則3割負担で受けることができるようになっており、会社員の場合は、会社が加入している健康保険に強制加入する形となります。
また、保険料は給料の額に応じて設定されている報酬月額によって決められ、それを会社と従業員で半額ずつ負担することになっています。
介護保険
40歳になると強制加入となる介護保険は、私たちに介護が必要となったときに介護サービスを受けられるようにするための保険です。健康保険とあわせて毎月支払うことになります。
また、65歳以上の年金受給者の場合は、65歳になったその月から、年金からの天引きで介護保険を納めることになります。
保険料は健康保険と同じく、給料の額に応じて決定され、会社と従業員で半額ずつ負担するという形です。
厚生年金保険
厚生年金保険は、会社の従業員や公務員が年金を受け取れるようにするための公的年金です。
20歳以上の国民は国民年金保険に加入することになっていますが、従業員の場合は厚生年金保険という形で、国民年金保険料も一緒に納めます。
そうすることで、原則65歳以上になると国民年金とあわせて老齢厚生年金を受け取ることが可能となります。
また、年金の受給は2022年の4月から、66歳以降75歳までの受け取りに変更することも可能となりました。
雇用保険
雇用保険は従業員の安定した雇用を確保するためのものです。毎月納めることで、失業した際にいわゆる「失業手当」を毎月受け取ることができるようになります。
また、育児休暇を取った際にその期間に応じて給付金が支給されるほか、職業訓練の際にも必要な給付金が支給されます。雇用保険も会社と従業員で一定割合ずつ負担する形になっています。
雇用保険率は事業の種類と年度によって変動があり、2022年度の一般事業の雇用保険率は下記のとおりです。
2022年4月1日~2022年9月30日※一般の事業の場合
- 労働者負担:0.3%
- 事業主負担:0.65%
2022年10月1日~2023年3月31日※一般の事業の場合
- 労働者負担:0.5%
- 事業主負担:0.85%
労働者災害補償保険
労働者災害補償保険とは、いわゆる「労災保険」のことを指します。通勤中や業務中に生じた怪我や病気、休業、障害、死亡に対して給付されます。
労災保険に関しては従業員側の負担は一切なく、全額会社が負担しています。また、アルバイトやパートなど雇用形態に関係なく受けられます。
個人事業主が加入する「社会保険」
ここまでは会社員が加入する社会保険について紹介しましたが、ここからは個人事業主が加入する社会保険について解説します。従業員とは異なるポイントもあるので、ぜひ確認しておきましょう。
国民健康保険
個人事業主が加入する国民健康保険は、怪我や病気による休業や出産、死亡に対する保険です。医療費の一部負担や各種給付金の支給がなされます。
会社員が加入する健康保険とほとんど同じようなものですが、出産手当金や傷病手当金が支給されないなど、一部扱いが異なります。
また、納付額は、納付者の所得や配偶者を含めた世帯の収入状況によって決められますが、会社で加入する健康保険のように会社と折半にはならないため、保険料が高めです。
なお、個人事業主の場合であっても、法人の代表者になった場合は従業員と同じ健康保険に加入できます。
介護保険
個人事業主が加入する介護保険は、会社員が加入する介護保険と同じく、介護が必要となった場合に介護サービスの費用を給付してもらえる保険制度です。
会社従業員と同じように、個人事業主も40歳を迎えるタイミングで国民健康保険料と一緒に介護保険料を納付します。
保険料は本人の所得や世帯の所得によって決定され、65歳以上の方は、年金からの天引きで納付されるようになります。
また、介護保険も、法人の代表となった場合は従業員の介護保険と同じ扱いになります。
国民年金保険
個人事業主が加入する国民年金保険は、老後の生活や障害が起こったとき、あるいは死亡したときに備えた保険制度です。
毎月納めることで老後のための「老齢年金」や、障害が起こったときのための「障害年金」、加入者が死亡したときの遺族のための「遺族年金」を受け取れるようになります。
国民年金保険の保険料は毎年度見直され、2022年度の場合は月額16,590円固定となっています。また、こちらも法人の代表者となった場合は厚生年金保険に加入することとなります。
個人事業主が加入できない「社会保険」について
ここまで個人事業主が加入できる社会保険について紹介しましたが、実は個人事業主では加入できない社会保険も存在します。具体的にどのような社会保険が該当するのか、確認していきましょう。
雇用保険
雇用保険は、前述のとおり「従業員の雇用を安定させることを目的とした保険」です。また、雇用保険法は「労働者」を雇用保険の対象としています。
これはつまり、従業員も労働者も会社員を指しており、個人事業主には該当しないということ。そのため、個人事業主は雇用保険に加入することが不可能となっています。
これにより、個人事業主が仕事を失っても失業手当の給付はないため注意が必要です。
労働者災害補償保険
こちらも雇用保険と同様に「労働者」を対象としている保険であり、個人事業主を対象としている保険ではありません。
ただ、「個人事業主であっても体を負傷しやすいと考えられる仕事をしている場合はどうなるか」と疑問を抱く方もいるでしょう。そのような場合は例外的に、特別加入できます。
特別加入の対象になるのは、下記のような事業です。
- 個人タクシー、個人貨物運送業者など
- 大工、左官、とび職など
- 漁船による漁業者
- 林業
- 医薬品の設置販売
など
個人事業主でも、休業補償給付や障害補償給付、遺族補償給付などを受けられるため、対象の事業に該当する場合は加入を検討しましょう。
副業やダブルワークで社会保険に入るときのポイント
ここからは、副業やダブルワークで社会保険に加入する際のメリットや注意点について解説します。副業やダブルワークを始めた方、これから始めるという方は、ぜひ参考にしてください。
将来支給される年金が増えるメリットがある
本業と副業それぞれの事業所で社会保険に加入する場合、「将来支給される年金が増える」というメリットがあります。
両方の事業所で社会保険に加入することにより、年金の1階部分である国民年金にくわえて、2階にあたる厚生年金がさらに積まれていくからです。
また、厚生年金は納付している期間が長ければ長いほど、年金の支給額が上がっていきます。
国民健康保険にはない給付を受けられるメリットがある
会社員が加入できる健康保険では、国民健康保険にはないメリットを享受できるようになります。詳しくは以下のとおりです。
- 傷病手当金:怪我や病気で仕事を長期間休むことになったときに給付
- 出産手当金:出産のために仕事を休んだときに給付
これらの制度を利用することで、傷病手当金は最長1年6カ月、出産手当金は出産の日以前42日から出産の翌日以後56日目の範囲内で、手当金をもらえます。人間ドックを受けるようなときにも補助金を出してもらえるため、国民健康保険にはない手厚い補助を受けられます。
個人事業主として働けば社会保険料は増えない
副業あるいはダブルワークとしてアルバイトやパートをする場合、本業にくわえてもう一方の給与も、条件によっては社会保険の対象となるため、そのぶん社会保険料が増えてしまうというデメリットがあります。
しかし企業に雇われて「給与」を得る雇用形態ではなく、個人事業主として働けば、社会保険料を増やさずに副業できます。
会社員が個人事業主としてできる仕事には、ライターやイラストレーター、Webデザイナーなどがあります。ほかにも、不動産投資や個人で行うネイルサロン、パン教室などの方法もあります。
しかしながら、個人事業主であっても事業によって所得が大幅に増加すれば、所得税や住民税は上がるため、その点には注意しておきましょう。
本業の会社に副業がバレるデメリットがある
副業やダブルワークをして、どちらの会社でも社会保険に加入する場合は、本業の勤め先にダブルワークをしていることがバレてしまうというデメリットがあります。
これは、両方の会社で社会保険に加入すると、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する必要があるためです。
また、副業やダブルワークを認めていない会社で副業をすると、注意勧告や減給、最悪の場合解雇処分となってしまう可能性があります。
そのため、両方の会社で社会保険に加入する場合は、必ず本業の会社が副業を許可していることを確認しましょう。
130万円を超える年収だと社会保険上の扶養から外れる
主婦などで配偶者の扶養に入っている方の場合、130万円を超える年収がある場合は、社会保険上の扶養から外れるため注意が必要です。
いわゆる「130万の壁」というものです。
該当すると配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要が出てきます。
それまで、社会保険料や年金を会社と折半して納付していた部分が、全て自己負担となってしまいます。さらに所得税や住民税の支払いも自分でしなければならなくなります。
そのため、扶養控除内で働くことを希望している場合は、年収130万円を超えないようにしてください。
副業やダブルワークで社会保険に入りたくないときのポイント
ここでは、「副業先で社会保険に入りたくない……」という方に向けて、副業やダブルワークで社会保険に入らずに済むためのポイントを紹介します。
年収が106万円以上にならないようにする
社会保険の加入条件の中には「年収106万円(月給88,000円)以上」というものがあります。
これに該当しなければ、社会保険の加入対象とはならないため、社会保険の加入を避けたい方は、副業先での年収を106万円未満に調整してください。
年収106万円は月収にすると88,000円ですので、毎月この金額を超えないように働けば問題ありません。
副業を考えている場合は、どれぐらいの収入を目指すのか、社会保険に入ると手取りがどれぐらい変化するのかも考えておきましょう。
また、社会保険に入りたくない場合は、加入条件を満たさないようにしながら働くのがポイントです。
労働時間が週20時間以上にならないようにする
これも、上記と同様「加入条件を満たさないようにする」ということになりますが、労働時間が週20時間以上にならないようにする必要があります。
日々の労働時間を長くして日数を少なくするか、時間を短くして日数を増やすといった対策で、週20時間以上にならないように調整しましょう。
中には、年収106万円という数字ばかりを気にしすぎて、労働時間を考えていなかったという方もいますので、労働時間もあわせて意識してください。
ポイントを抑えたうえで副業の社会保険を検討しましょう
この記事では、副業やダブルワークを検討している方が知っておくべき、社会保険のポイントや注意点について解説しました。
繰り返しになりますが、副業先で一定の条件を満たしている場合には、ダブルワークであっても社会保険の加入が必要です。
ただし、余計な保険料を払いたくない場合や、本業の会社に副業を知られたくない場合は、社会保険に加入しないで済むよう、収入を調整する必要があります。
もちろん、この記事で紹介したように、本業と副業の両方の会社で社会保険に加入しておくことにはいくつかのメリットもあります。
副業やダブルワークを検討している方は、副業先でも社会保険に加入しても問題がないのかを確認したうえで副業を始めることをおすすめします。