カウンセラーにとって重要視されているスキルに「傾聴力」があります。

カウンセラーは傾聴する際、相手の話をただ聴くのではなく、さまざまな技術を使いながらカウンセリングを行っていきます。そのため、カウンセラーを目指す人にとって、傾聴力は必要不可欠なスキルです。

そんな傾聴力についてこの記事では、そもそも傾聴とは何か、またカウンセリングの際に必要な傾聴の技術について詳しく解説します。

傾聴力をより磨くことができるおすすめの本もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

そもそも傾聴とは

「傾聴」とは、米国の臨床心理学者でカウンセラーのカール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱されたものです。

従来のカウンセリング理論に疑問を抱いたロジャーズは、自ら行ってきたカウンセリングの事例を分析し、有効であったカウンセリングに共通していた「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の3つを挙げ、聴く側の3要素として提唱しました。

1.共感的理解

共感的理解とは「話を聴く際に相手の立場になって、気持ちを共感しながら相手のことを理解しようとすること」です。

カウンセラーがクライアントの抱いている感情を聴きとり、相手の立場になることで気持ちを想像し、客観的にクライアントが抱いている感情を理解していきます。

悩みを抱えているクライアントは、自分の感情が混乱している場合が多く、自分の感情を正しく把握できていない可能性があります。

そこでカウンセラーは、クライアントが怒りの感情を持っているときは「怒っているように」話を聴き、悲しみの感情を持っているときは「悲しそうに」話を聴くようにします。

ただし、カウンセラーがクライアントの感情に巻き込まれてしまうと、冷静な判断がしづらくなります。そのため、あくまでもクライアントの感情を想像し、客観的に理解できるよう務める必要があります。

2.無条件の肯定的関心

無条件の肯定的関心とは「相手の話を否定せず肯定的に受け止め、その考えを抱いた理由に関心を持つようにすること」です。

クライアントがどのようなタイプの人であっても、カウンセラー自身が選り好みや価値観の押し付けをせずに、クライアントの話に対して、肯定的な姿勢と積極的な関心を持ちながらヒアリングすることを指します。

悩みを抱えているときは、自分に対して否定的になってしまい、自分の感情や経験などのさまざまな事柄を受け入れることが難しくなってしまう場合があります。

カウンセラーがクライアントのありのままを受け入れ、肯定的な姿勢で相手に関心を持つことで、クライアント自身も自分のありのままを肯定できるようになり、自己実現に向かって進みやすくなります。

そして、この無条件の肯定的関心を示すことで、クライアントは安心して話ができるようになるのです。

3.自己一致

自己一致とは「話の中で理解できないことが出てきた場合、相手に理解できないことを伝え真意を確かめること」です。

「自己一致」とは、「純粋性」とも呼ばれており、クライアントに対するカウンセラーの実感が、発言している言葉や態度と一致している状態を指します。

クライアントに対して抱いている感情を包み隠さず全て話す必要はありませんが、カウンセラー自身も自分の気持ちを大切にし、それらに対して欺かないようにするという意味合いがあります。

相手に対しても自分に対しても真摯に向き合い、話を聴いていくことが自己一致をするうえでとても重要となり、クライアントとカウンセラーの信頼関係の構築にも必要不可欠なものとなります。

具体的な傾聴術

傾聴といっても、必要とされる技術にはさまざまなものがあります。ここでは、傾聴する際に必要な技術について、具体的にみていきましょう。

1.相手の気持ちをくみ取る

傾聴をする第1段階として、とても重要となるのが「相手の気持ちをくみ取ること」です。

クライアントが話す内容はもちろんのこと、声、しぐさ、表情など、さまざまな観点から相手の気持ちや、現状の精神状態がどのようになっているのかをくみ取っていきます。

喜怒哀楽のほか、「憧れ」や「嫉妬」、「不安」や「恥ずかしさ」「諦め」など、さまざまな感情を細かくくみ取り、現状の心の状態を理解しておくことで、気持ちを理解しているとクライアントに示せます。

気持ちをくみ取る際には、クライアントの気持ちに対して、善悪や好き嫌いの評価や判断を下さないよう注意しましょう。

2.相手が話した気持ちを繰り返す

クライアントとの会話を進めるうえで、相手が話した気持ちを口に出して繰り返すことも大切です。

例えば、クライアントが「失敗をして悔しい」と話した際には、「失敗してしまったことが悔しかったのですね」と、口に出して気持ちを繰り返してください。

もし、クライアントが言葉で気持ちを示すことが難しい場合には、声のトーンや表情、しぐさなどからクライアントの気持ちをくみ取り、口に出してその気持ちを反復していきます。

例えば、緊張しているような表情や、落ち着かない様子、話している声のトーンなど、さまざまな表情や所作からも気持ちをくみ取ることができます。

クライアントの話や、感じ取った気持ちを繰り返し発言することで、クライアントに対して理解していることを示せるのと同時に、クライアントに対して「カウンセラーに理解してもらえている」という安心感を与える効果もあります。

3.相手が話した言葉を言い換えて話に組み込む

次に重要なのが、「相手が話した言葉を言い換えて話に組み込む」ということです。

これは、クライアントとの会話に出てきた出来事やフレーズについて、そっくりそのまま繰り返すのではなく、少し言葉や言い回しを換えて話の中に再び盛り込むものです。

このように、再び話の中に入れられた話題やフレーズのことを「パラフレーズ」と呼びます。

「パラフレーズ」は、意味を変えずに表現だけ変えていくことで、例えば、「子どもが怪我をしてしまい、心配だ」とクライアントが話した場合、「あなたは心配ですよね、お子さんが痛い思いをするのは」といったように、主語を明確にし、話の内容が誰のもので誰の体験であるのかを明確にしていきます。

このように、「パラフレーズ」を用いて話をしていくことで、クライアントも理解されていることが認識しやすくなります。

4.何が問題なのか少しずつ明確にする

ここまで紹介した技術のほかに、傾聴では会話の続きを促していくという技術も必要となってきます。

クライアントが悩みを抱いている状況を踏まえたうえで、「何が問題なのかを少しずつ明確にする」ということが大切であり、抱えている悩みを解決するための糸口を探っていくために、会話の続きができるよう促していきます。

「それからどうなりましたか?」「その話を、もう少し詳しく教えてもらえますか?」など、続きを話しやすいように問いかけることで、クライアントがどこに問題点を抱いているのかが分かりやすくなります。

話の中で出てくる登場人物や気持ちについて丁寧に確認をしながら、クライアントとの信頼関係を維持できるよう、急がず慎重に話を進めていくようにしましょう。

5.相手が沈黙や取り乱したときは落ち着かせて対処する

話を進めていく中で、クライアントの会話が止まり沈黙する場面や、クライアントが取り乱してしまう場面が出てくることもあるでしょう。

そのようなときに必要となる技術が、「クライアントを落ち着かせて対処する」というものです。

まずは、クライアントの様子を確認します。中には、何を話そうか考えていて沈黙している場合や、不安になって沈黙している場合があります。

そういった場合は、クライアントが話し出すのを待ってみましょう。ただし、沈黙があまりに長く続くような場合には、少し話しかけて様子をみてください。

万が一、取り乱してしまっている場合はまず、クライアントを落ち着かせることが大切です。落ち着いたタイミングで話を聴き、相づちや相手の気持ちを繰り返し共感をしながら、クライアントが冷静さを取り戻せるようにしてください。

こうして相手の状況を観察し、落ち着いて行動することでクライアントも感情を落ち着かせられます。

6.相手が最も問題と感じている内容にフォーカスする

傾聴の目的は、クライアントが自分で問題解決をするための糸口を見つけることです。そのため、「相手が最も問題と感じている内容にフォーカスする」という技術がとても重要となります。

クライアントがその問題について、どのように考えているのかを丁寧に確認しましょう。クライアント自身が、「今後どうしていきたいのか」を考えられるように導いていくことが大切です。

問題の改善案や結論を急いで出そうとすると、これまでクライアントと築き上げてきた信頼関係が崩れてしまう恐れがあります。

あくまでもクライアント本人が問題を解決できるよう、最も問題視している内容に焦点をあてながら、慎重に話を聴くようにしましょう。

7.相手ができる範囲を明確にする

クライアントが抱えている問題が明確になったら、その問題を解決するためにできることを探っていきます。

しかしながら、クライアントの悩みが深くなればなるほど、自分が置かれている状況を正確に捉えることが難しくなってしまいます。

そのため、クライアントとの話を進めていく中で、クライアントが問題を解決するためにできそうなことがあれば、見落とすことなく明確にしていきましょう

クライアントの中には、解決のために自分でできることが分からずに苦しんだり悩んだりしている方も多いです。現実的にできそうなことに範囲を絞って、クライアント自身が気づけるように導いていくことで、問題を解決するための近道を作ることができます。

8.相手が主体的に行っていることサポートする

クライアントの中には、最も問題であることについて、本人が認識できていないこともあります。別のことを主体的に行っており、そのことについて話を掘り下げていくことも多々あります。

最も問題であることに正面から向き合うことが解決のための近道ではありますが、傾聴することはクライアント自身が自分の力で問題解決をしていくことを目的としているため、「クライアントが主体

的に行っていることをサポートする」ということも重要な技術の一つとなります。

相手の気持ちをくみ取り、主体的に行っていることを丁寧に傾聴してサポートしていくことで、より強い信頼関係を築くことができ、スムーズなカウンセリングを行うことが可能となります。

傾聴術を磨くのにおすすめの本

現在は、傾聴について学べる本が多数出版されており、これらの本を読むことで傾聴の技術をより磨くことができます。

ここでは、数ある傾聴の技術に関する本の中から、おすすめの本を3冊紹介します。

『プロカウンセラーが教えるはじめての傾聴術 』

傾聴の基本となる技術や、人の心理について分かりやすく学習し、同時に共感力を養い磨いていきたいと考えている方におすすめなのが「プロカウンセラーが教えるはじめての傾聴術」です。

この本は、心理学を教えていた経験を持ち、研修、傾聴セミナー等を数多く行ってきたプロのカウンセラーが著書したものです。そのため、実際の事例をもとに初心者でも分かりやすいよう、良い応答例と悪い応答例が紹介されており、実践的な学習もできるようになっています。

傾聴を使う際に欠かせない理論や技術についても丁寧に分かりやすく解説してあり、イラストやデータ等も使われているので、傾聴についての技術を磨いていくことができます。

『プロカウンセラーの共感の技術』

傾聴をする際に欠かせない「共感の技術」を学習し、さまざまな人との人間関係を豊かにするための共感技術を磨いていきたいと考えている方におすすめの本が「プロカウンセラーの共感の技術」です。

この本は、ベストセラーとなった「聞く技術」に続いて出版されたもので、プロのカウンセラーとして培ってきた共感の技術として、愚痴の聴き方、ネガティヴ感情との関わり方、言葉を用いない共感の伝え方、対立する相手への共感の仕方などを分かりやすく紹介しています。

この本を読むことで、どのような相手にでも自分の中で「相手への共感」を生み出す技術がしっかりと身につくようになるでしょう。共感の技術をより磨きたい方におすすめの一冊です。

『はじめてのカウンセリング入門(下) ほんものの傾聴を学ぶ』

カウンセリングの傾聴の技術を磨きたい方におすすめの本が「はじめてのカウンセリング入門(下)ほんものの傾聴を学ぶ」です。

カウンセリングで用いられる傾聴に関する技術や意味について、分かりやすく解説された一冊です。

クライアントへのさまざまなアプローチの仕方や、クライアントの気持ちなどを解説しながら、「人の話を聴く」ことがいかに難しいことかを、丁寧に詳しく解説しています。

また、カウンセリングを初めて学ぶ方は、基本的なカウンセリング技術について学べる上巻もあわせて読むことをおすすめです。

傾聴力を身につけて人の役に立てるカウンセラーを目指しましょう

傾聴力は、カウンセラーの技術として必須なことはもちろん、カウンセリング以外でも誰かの悩みや問題についての相談を受ける際に応用できるスキルです。

この記事で紹介した傾聴の技術を身につけることによって、相手をより深く理解し、問題に対して最適な解決方法を見つけ、ゴールまで導けるようになります。また、相手との信頼関係もより深く築けるようになるでしょう。

悩みや不安を抱えている方に深く寄り添えるカウンセラーを目指して、あなたもぜひ頑張ってみてください。