悩みや不安の相談に乗ってくれ、親身に受け止めてくれるのが心理カウンセラーです。カウンセリング中に、これまで言えなかった悩みや自分の姿をさらけ出していると、恋愛感情が芽生えてしまうこともあるでしょう。そのような場合、カウンセリングは続けられるのでしょうか?
この記事では、心理カウンセラーとクライアント(相談者)の立場で恋愛感情を持ってしまった場合に、どのようにするべきかを紹介します。
目次
心理カウンセラーに恋愛感情を抱きやすい理由
まず、心理カウンセラーに対して恋愛感情を抱きやすい理由について紹介します。なぜカウンセラーに対して特別な感情を抱いてしまうかを、原因から理解していきましょう。
心理カウンセラーとの親密感が高くなるから
心理的な問題を解決するカウンセリングの場合、クライアントがカウンセラーに親近感を覚えることは、問題解決において重要です。
なぜなら、親密感を強めることで、自分の思っていることをさらけ出す下地が作られるからです。しかし、話を聞いてもらい、親密感を過剰に抱いてしまうと、カウンセラーに対して恋愛感情を抱いてしまう傾向がどうしても高くなります。
カウンセリングが進むにつれ、どんどん親近感が上がっていくと、それに伴ってクライアント側の気持ちを抑えるのも難しくなってしまいます。
そのため、あくまでもカウンセリングの一つの効果として「親近感が強まっているんだ」ということを意識しながらカウンセリングを受けることが大切です。
心理カウンセラーは傾聴スキルが高く、話に共感してくれるから
クライアントの悩みを解決してくれる心理カウンセラーは、簡単な言い方をすれば「聞き上手」です。
相手の話に耳を傾け、熱心に聞くスキルを「傾聴」と呼びますが、カウンセラーはカウンセリングを通じて、クライアントを理解しようとしています。
自分がこれまで吐き出すことのできなかった話に対し、カウンセラーは否定せず共感してくれるため、「カウンセラーが自分に好意を抱いてくれるのではないか」と、クライアントが考えるようになってしまうのです。
自分にとって一番の理解者だと感じるから
繰り返しになりますが、カウンセラーは傾聴のプロです。そのため、クライアントがこれまで誰にも話すことができなかった内容であったとしても、親身に聞き、共感してくれます。
カウンセラーのそのような態度を見ると、クライアントとしては「この人が自分の一番の理解者だ」と感じるようになり、恋愛感情を抱くきっかけとなるのです。
誰でも、自分の話に対し共感してもらえると嬉しく感じます。心理カウンセラーの場合は特に、カウンセリングのための共感力が長けているため、その嬉しさはずいぶんなものになるでしょう。
カウンセリングが進むにつれて、その嬉しさが恋愛感情へと変わってしまうことは少なくありません。
自分が素直になれるから
心理カウンセラーは、カウンセリングのために、クライアントのありのままを受け入れ、共感します。クライアントは共感してもらえることで「この人は自分と同じ考え方をしている」と思うようになり、親近感が湧いてきます。
すると、カウンセリングが進むにつれ、ありのままの自分を表現できるようになることが多いです。そうした中で徐々に、カウンセラーに対して好意を抱き、その感情が次第に恋愛感情へと発展していきます。
優しい言葉をかけてくれるから
カウンセラーは、クライアントが抱えている悩みを解決するために、相手に共感しながら思いやりのある言葉をかけます。悩みを抱えるクライアントにとって、優しい言葉はとても心に響くものです。
カウンセラーからそうして優しい言葉を投げかけてもらうたびに、少しずつ好意が増していき、最終的には恋愛感情が芽生えてしまうのです。
特別な感情は心理学用語で転移・逆転移と呼ばれる
心理療法では、信頼や温かな関係が治療の効果に重要な影響を与えると示されています。ここでは、心理学用語の「転移」「逆転移」とともに、これらがどのような意味なのかを解説します。
転移(トランスファランス)
転移(トランスファランス)とは、精神分析の祖であるフロイトが提唱した概念で、カウンセリングにおいては「クライアントからカウンセラーへと向かう感情」のことを指します。
カウンセリングの中では、クライアントがこれまで無意識に抑圧してきたさまざまな感情が、カウンセラーへの感情として出てきます。
転移はもともと、両親などの重要な他者へ向けられた感情であるため、クライアントはカウンセリングの進展につれて、相手に信頼や愛情といった感情を向けていくのです。
逆転移(カウンタートランスファランス)
逆転移(カウンタートランスファンス)は、「カウンセラーからクライアントへと向かう感情」のことを指します。
例えば、カウンセラーが大切な思いを抱く家族の姿とクライアントを重ねてしまい、これによってカウンセラーに感情を向けてしまうことがあるのです。
ただし、逆移転の場合、クライアントへの特別な感情によって相手の核心に迫ることができず、カウンセリングがなかなか進展しないというケースがあります。
心理カウンセラーに恋愛感情を抱いたときはどうすれば良い?
カウンセラーに対して恋愛感情を抱いた場合は、カウンセリングを中断するか、他のカウンセラーに依頼することを検討してみてください。ここでは、その理由について解説します。
「日本産業カウンセラー協会」の倫理綱領
カウンセラーには、遵守すべき行動基準とその理念を示す倫理綱領があり、クライアントとの間では恋愛だけでなく金銭的関係などの二重関係を避けるよう努めなければなりません。
以下で紹介する、日本産業カウンセラー協会の行動倫理によると、
産業カウンセラーは、専門家としての判断を損なう危険性あるいはクライアントの利益が損なわれる可能性を考慮し、クライアントとの間で、家族的、社交的、金銭的などの個人的関係およびビジネス的関係などの二重関係を避けるよう努める。
とされており、同条2項では、
産業カウンセラーはクライアントとの間で性的親密性を持たないよう努める。もしそのような可能性が生じた場合は、カウンセリングを中止するか、他のカウンセラーに依頼する。
とも書かれています。
これはつまり、カウンセラーとクライアントが、それぞれの立場を越えた関係を持ったままカウンセリングを続けると、本来得られるべきカウンセリングの効果が損なわれてしまう可能性がある、ということです。
行動倫理はあくまでカウンセラーに向けられたものですが、カウンセラーがクライアントの感情に気付き、カウンセリングの継続が困難と判断した場合には、そこで打ち切るケースもあるということを、あらかじめ知っておくと良いでしょう。
カウンセラーへの恋愛感情は自然!ただしカウンセリングは中断を
カウンセラーとクライアントとの間で恋愛感情を持ってしまうことは、心理学の研究でも分かっているように、よくあるできごとです。
しかし、このような感情が発生してしまうと、適切なカウンセリングを行うことはできません。
恋愛感情を抱くことは自然なことですが、カウンセリングにおいては自分の悩みや不安を解決することを優先するようにしてください。