副業をこれから始める、あるいは今後副業を検討している方の中には、「副業の収入にも所得税がかかるのかを知りたい」「所得税の課税対象が分からない」という方が少なくありません。

そこでこの記事では、所得税の課税対象や計算方法、納付方法からよくある質問まで解説します。副業の所得税に関して詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

副業で得た収入にも所得税は課せられる

結論からお伝えすると、副業で得た収入に対しても、所得税はかかります。所得税の対象は、「個人が1月~12月末日までの1年間で得たすべての所得」です。

本業、副業に関係なく、所得に対しては所得税が発生します。「副業で得た収入だから所得税がかからない」「現金で受け取ったので所得税がかからない」ということはありません。

また、所得税については「所得」という言葉がキーワードになります。「所得」を正しく理解することで、所得税の概要や仕組みが分かるようになります。

「所得」と「収入」の違い

所得税は、所得に対してかかる税金です。よく誤解されやすいのが、「所得」と「収入」の違いです。

「収入」とは稼いだお金の総額を指します。1,000万円を稼いだなら、1,000万円が収入です。会社員の場合は年収=収入となります。

一方、「所得」とは収入から経費などを差し引いた金額のことです。

例えば、お店で商品を売って1,000万円の収入(売上)がある方の場合、売上の金額がそのまま「所得」になるわけではありません。商品を仕入れるためにかかるお金やお店の家賃などの経費、年金保険料や健康保険料などの社会保険料も発生します。

これらのお金を収入(売上)から差し引いた額が所得となります。会社員の場合は、基本的に所得から経費を引かないため、どの金額が所得に当たるかをあまり意識することがありません。しかし、実は会社員の給与に対しても、収入の額によって、経費の代わりとなる控除が受けられます。

これを「給与所得控除」といいます。会社員の所得税は、収入から給与所得控除や社会保険料などを差し引いた額に対して税金が発生しているのです。

所得税の課税対象は10種類

一言に「所得」といっても、その種類はさまざまです。どうやってお金を稼いだかによって所得の種類が分類され、それぞれで所得を計算することになります。

ここからは課税対象となる所得の種類について、解説します。

利子所得

利子所得とは、預貯金の利子や公社債の利子などのことを指します。利子所得を計算するとき、経費を差し引くことはできません。

イメージしやすいのは、銀行に預けているお金に対して支払われる利息です。

利息は利子所得として課税対象になります。銀行から支払われる利息は、受け取る時点ですでに税金が差し引かれています。

例えば、100万円預けていて利息が0.01%だとすると、100万円×0.01%=100円から所得税が差し引かれて、実際に受け取れる金額は80円ほどになります。

配当所得

配当所得とは、法人から受け取る剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配などです。イメージしやすいのは、投資をしている人が受け取る配当金です。

配当金とは、投資で株を買っている会社から定期的に支払われるお金を指します。株を持っているだけでお金を受け取ることができるため、この配当金を目当てに投資をしている方も少なくありません。

配当金は配当所得に該当し、所得税の課税対象となります。

配当所得を計算するうえで、受け取った配当金から経費として差し引くことができるものに「負債利子」があります。「負債利子」とは、借りている金額にかかる利子のことです。

借金をせずに自分のお金で投資をする方は、経費として差し引くことができるものはないので、受け取った配当金=配当所得となります。

不動産所得

不動産所得とは、不動産や不動産のうえに存在する権利(土地を借りる権利など)または船舶や航空機の貸し付けによる所得を指します。

所有している不動産を他の人に貸すことで得られる、家賃や礼金、更新料などが代表例です。

不動産所得を計算するうえで、不動産収入から経費として差し引くことができるものには、不動産を保有することで発生する、固定資産税や損害保険料などがあります。

事業所得

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業から生じる所得を指します。飲食店経営や塾運営などの事業での「売上」が該当します。

副業であった仕事の規模が拡大し事業としてみなされる場合には、事業所得となります。

事業所得を計算するうえで、事業収入から経費として差し引くことができるものには、売上をつくるために発生した仕入れにかかる費用や従業員へ支払った給与、店舗の家賃、交際費などがあります。

給与所得

給与所得とは、給料・賃金・賞与など勤務先の会社などから受け取る給与を指します。会社員の場合、ふだん受け取っている給与はすべてこの給与所得に該当します。

副業でも、他の会社に雇われて働く・アルバイトやパートで働くことでお金を得る場合には、給与所得に分類されます。

給与所得を計算するうえで経費として差し引くことができる額は、給与所得控除といい、収入金額に応じて決まっています。

退職所得

退職所得とは、退職により勤務先から受け取る退職金などを指します。

退職所得を計算するうえで、受け取った退職金から差し引くことができる額は決まっています。これを退職所得控除といいます。例えば、20年間会社に勤務し続けた方であれば、800万円が控除されます。

退職金から退職所得控除を差し引いた額の1/2が退職所得となります。受け取った退職金が1,000万円だとすると、(1,000万-800万円)×1/2=100万円が退職所得です。

山林所得

山林所得とは、山林を譲渡することによって生ずる所得を指します。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採または譲渡した場合には、山林所得ではなく、 事業所得もしくは雑所得になります。

山林所得を計算するうえで、必要経費に加えて特別控除額である最高50万円を収入から控除できます。

譲渡所得

譲渡所得とは、土地や建物などを譲渡することによって生じる所得を指します。

マイホームなどを譲渡して得たお金に対しては、特別控除が適用される場合があります。

一時所得

一時所得とは、今まで紹介した利子所得から譲渡所得には該当しないもので、一時的に特別に得た所得を指します。

イメージしやすいのは競馬や競輪などのギャンブルで得たお金です。生命保険の一時金なども含まれます。

似た種類のものに宝くじの当選金がありますが、これは一時所得には該当せず非課税になります。

雑所得

雑所得とは、今まで紹介した所得から一時所得のいずれにも該当しない所得を指します。年金や副業にかかる所得が該当します。

副業に関しては、規模が大きく事業と認められれば事業所得、雇用主から給与という形で報酬を受け取っているのであれば給与所得となりますが、それ以外の一般的な副業の規模の報酬であれば、この雑所得に該当することが多いです。

副業として行った講演料やアフィリエイト収入、ネットオークションやフリマでの収入、記事執筆の原稿料などは一般的に雑所得になります。

副業で得た雑所得を計算するうえで経費として差し引くことができるものは、副業の収入を得るためにかかった費用です。

副業の所得税の計算方法

副業として得る所得は、雑所得・事業所得・給与所得に分類されることが多いです。ここからは具体的な所得税の計算方法を解説します。

所得金額の計算をする

まずは各所得の所得金額を計算します。所得金額は、収入から経費や各種控除額を差し引いた額となります。経費には、健康保険料や年金保険料などの社会保険料も含まれます。

また副業で所得が発生した場合は、原則として確定申告が必要です。白色申告で確定申告を行う場合は、10万円の控除を受けることができます。

ただし、雑所得が20万円以下の場合は、所得税の申告は不要です。副業での収入が25万円あっても経費が6万円かかっているのであれば、雑所得は25万円-6万円=19万円となり、申告不要となります。

会社員が副業を行う場合には、会社から支給される給与所得と雑所得の2つの所得が発生することが多いため、それぞれの所得額を確認しましょう。

所得税の計算をする

一般的に所得税の計算は、各種所得を合算して行います。そこから白色申告による控除や他の控除を差し引いた金額に対して、税率がかけられて所得税が計算されます。税率は所得金額によって異なっており、以下の通りとなります。

課税される所得金額税率控除額
1,000円~1,949,000円5%0円
1,950,000円~3,299,000円10%97,500円
3,300,000円~6,949,000円20%427,500円
6,950,000円~8,999,000円23%636,000円
9,000,000円~17,999,000円33%1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

引用:国税庁「所得税の速算表」(2022年7月時点)

課税対象所得が350万円の場合、所得税は下記の通りです。

350万円×20%-427,500円=272,500円

上記の表のように、所得が高くなれば高くなるほど税率が上がる制度は「累進課税制度」と呼ばれています。

所得税の納付方法

通常、会社員は会社が代わりに所得税を計算・納付手続きをしているので、自分で所得税を納付することはありません。

ただし副業で所得が発生すると、自分自身で所得税を納付する必要があります。ここからは所得税の納付方法について解説します。

所定の場所にて現金で納付する

税務署や指定の金融機関へ直接出向き、現金で所得税を納付します。30万円以下の納税額の場合は、コンビニでの支払いもできます。

納付の際には、納付書も添えて提出が必要です。納付書を持っていない場合は、税務署や金融機関に用意してある納付書を使用してください。

銀行口座で振替する

銀行振替を依頼すると、口座から税金が自動で引き落とされます。「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」を所轄税務署に提出しましょう。

ネットバンキングで電子納付する

e-Taxという納税システムに登録している場合、ネットバンキングからの電子納付が行えます。インターネットを経由して電子的に手続きを行う方法のため、税務署や金融機関に行く必要がありません。

クレジットカードを使って納付する

インターネットでのクレジットカード支払機能を利用します。こちらも税務署や金融機関に行く必要がありません。

ポイントがつくクレジットカードもあるため、お得に税金の支払いをすることができます。

副業の所得税についてよくある質問

ここからは、副業の所得税についてよくある質問を解説します。

副業で収入があるのに所得税を申告しないとどうなる?

副業で年間所得が20万円を超えているのに、確定申告を行わなかった場合には罰則となる追徴課税が発生する可能性があります。

本来納付すべき税金に対して、50万円までは15%・50万円を超える部分に対しては20%の税金が加算されます。これを無申告課税といいます。

他にも、重加算税や延滞税などが課される可能性があるので、期限内に必ず確定申告を行いましょう。

関連記事:副業で納める住民税は?申告方法、申告しないとどうなるかを解説

所得税から副業していることが会社にバレる?

所得税から、副業をしていることが会社にバレることはありません。確定申告は自分自身で行い、副業分の所得税は自分で支払うためです。

ただし問題は、住民税です。住民税は地方自治体が計算を行い、勤務先の会社に納付書を送付します。住民税も課税所得の額から計算されるため、会社の経理などが、地方自治体から送られてきた納税書を見て、明らかに一人だけ住民税の額が高ければ、副業を疑われるでしょう。

確定申告書を提出する際に、自治体によっては「住民税の納付書を「会社の分」と「副業の分」で分けて発行する」という欄があるので、そこにチェックをいれれば、副業分の住民税は会社の給与とは分けて自分で支払うことが可能です。

ただし地方自治体がこのチェックを見落として、丸ごと会社に納付書を送ってしまうこともたまにあるようなので、提出する際には絶対に間違わないように、電話などで確認をしておくほうが確実でしょう。

2020年の税制改正での雑所得の変更項目は?

税制改正により、前々年分の雑所得の収入金額が300万円を超える場合に、2022年から領収書の保存が義務化されました。

事業所得では以前から領収書の保存が義務化されていましたが、雑所得では領収書の保存は義務ではありませんでした。

副業は雑所得に分類されることが多いため、副業を行う場合には領収書を保存しておきましょう。保存期間は5年間です。

副業を始めるなら所得税の計算方法や納付方法を確認しておきましょう

副業を始める前に税金について完璧に理解する必要はないですが、所得税の確定申告を2月16日~3月15日の間にする必要があることは覚えておきましょう。

また、確定申告時には、自分の所得に応じて税金や経費の計算を行う必要があります。副業の所得がどれに分類されるのかを事前に確認してください。

確定申告を確実に行うことで、税金でのトラブルを避け、副業に集中できるようになります。