この記事では、ティーチングとコーチングの違いを比較し、それぞれの意味や目的、メリット・デメリットについて解説します。くわえて、効果を高めるポイントについて紹介しますので、ティーチングとコーチングの違いについて詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ティーチングとコーチングの違いを比較
答え | 目的 | 焦点 | |
ティーチング | 描かれたものを受け取る | 短期的な問題や課題の解決 | 人ではなく「事象」に焦点を当てている |
コーチング | 自分自身の中にあるものを探し出す | 長期的な問題解決や成長 | 問題や課題ではなく、それに向き合う「人間」に焦点を当てている |
上記のように、ティーチングとコーチングでは目的や問題に対する答えの出し方など、根本的な部分が異なります。
ティーチングの意味と目的
ティーチングは、経験豊富な人がそうではない人に自分が持っている知識や経験を教えるというものです。学校の先生と生徒をイメージいただくと、分かりやすいでしょう。
また、ティーチングは、指示・命令型のマネジメント・教育手法であり、知識やノウハウを教えることによって、問題解決することを目的としています。
学校の授業と似ているため、対話は指導側からの一方通行です。1対1で行われることが多いコーチングとは異なり、ティーチングは1対複数で行われることもあります。
なお、ティーチングは指導者がティーチングを通じて達成したい目標を持っており、その目標を実現するために指導を行っていることが多いです。
活用例1.対象者に経験やスキルがあまりない
ティーチングはその性質上、ティーチング対象者には経験やスキルがあまりないことがほとんどです。
例えば、新入社員や中途採用した社員のように、会社での業務内容に慣れていない人に対して、スキルや考え方などを吸収してもらうためにティーチングが行われます。
もちろんそれ以外にも、プロジェクトや部署の新しいメンバーに対して、必要な知識のティーチングをするケースもあります。
そのため、すでに同じ部署での経験が豊富なベテラン社員や、ヘッドハンティングで即戦力として獲得した中途採用の社員にはティーチングはあまり効果的ではないため、注意しましょう。
活用例2.緊急度の高い業務をしている
長い時間を使って社員自身の成長を促すコーチングとは異なり、ティーチングは言ってしまえば「必要な知識やスキルを一方的に教えて理解してもらう」だけです。
そのため、緊急性の高い業務をすることになった場合に、ティーチングは効果を発揮します。
例えば、業務中に何か予期せぬトラブルが発生した場合にも、その対処法をティーチングによって迅速に教授することで、スピーディーにトラブル解決へと向かうことができます。
また、途中からプロジェクトに参入したメンバーを即戦力として登用したい場合にも、短期間で完結させられるティーチングが適しています。
とにかく、ティーチングは「短期間でスキルや経験を伝えることができる」という点を覚えておきましょう。
コーチングの意味と目的
コーチングは、上司やコーチが対象者の自主性を尊重しながら、「対象者自身の成長を促す」ことを目的としています。
指示・命令型のティーチングとは異なり、コーチングは支持・支援型でマネジメントや能力開発が目的として採用されます。
問題解決ではなく、対象者自身の成長をサポートするため、「自分自身が成長できるための気付きを与える」のがコーチングの内容です。
具体的には、コーチや上司からの質問に答えながら自分を見つめ直すことで、成長するために必要な答えを自分自身で引き出すという作業を行います。
そのため、コーチングでは指導者から答えを教えてもらったり、アドバイスを受けたりすることはほとんどありません。ティーチングとの一番大きな違いはこの点です。
活用例1.対象者に経験やスキルがある
ティーチングと異なり、コーチングの場合は対象者にある程度経験や知識があることがほとんどです。
何も知識や経験がない状態でコーチングをして、いくら答えを探すように努力したところで、全く無の状態から適切な答えを自分で導き出すのはかなり難しいです。
コーチングは、対象者の中にあるポテンシャルや能力を引き出すために活用されるものなので、ある程度のスキルや経験が必要です。そのため、コーチングは経験を積んできた中堅社員や中間管理職、企業の役員・経営者などの人たちが対象者となります。
社員を対象とした通常のコーチングがある一方で、経営者を対象とした「エグゼクティブコーチング」も行われています。
活用例2.重要なことを教える
短期間で完結させることができるティーチングとは異なり、コーチングは1対1で時間をかけてゆっくり行います。
そのため、緊急性のある問題よりも、長期的に取り組みたい重要な課題のほうがより高い効果を発揮します。
例えば、長期的に部署の売上を伸ばしていくためにはどうすれば良いのか、自分のキャリアプランはどのように進めていけば良いのか、などの問題です。
反対に緊急性の高い問題を、コーチングで取り組むと、解決の期限に間に合わず手遅れになってしまう可能性があります。
ティーチングとコーチングを併用して活用できるケース
ティーチングもコーチングも、ともに優劣はなく、どちらも素晴らしいマネジメント手法のため、どちらか片方ばかりを行うのではなく、上手に使い分けることが大切です。
やや緊急性が感じられるものであっても、比較的余裕がある場合はコーチングを取り入れて、対象者の自主性を尊重しましょう。
また、コーチングをする中で、行き詰まってしまった場合は、ティーチングのような形でアドバイスをしたほうが、円滑に成長を促すこともできます。実践する際は、どちらか一辺倒になってしまわないように注意しましょう。
ティーチングのメリット
ティーチングのメリットは、短期間でスキルやノウハウを対象者に提供できることです。また、教えることがメインであるため、再現性の高さもメリットといえます。
ティーチングの目的は、目の前にある問題の解決のため、業務に沿った内容や、対象者のレベルにあわせた効率的な指導が可能です。
また、1対1で行われるコーチングとは異なり、ティーチングでは一度に複数人を対象とすることが可能なので、より効率的にスキルや経験を教授できます。
「問題に対する答えを迅速に提供する」のがティーチングの特徴のため、その再現性の高さや必要な期間の短さがメリットです。
ティーチングのデメリット
短期間で問題の答えを提供できるのがティーチングのメリットですが、それはデメリットにもなります。
ティーチングでは問題に対する答えをすぐに提供するため、「何かあった時に自分で考えずにすぐ答えを求めてしまうようになる」というデメリットにつながってしまうのです。
ティーチングでは、自主的な成長を期待することができないため、このようなデメリットを招いてしまいます。
また、「レベルの高い内容をティーチングで伝えることが難しい」というデメリットもあります。
ティーチングは、指導者側が持っている知識やノウハウレベル以上のものを提供することができません。そのため、ティーチングの効果をより高めるためには、それに応じた高いレベルの指導者が必要になります。
コーチングのメリット
コーチングは自分自身で問題解決への答えを導かせることを目的としているため、対象者の自主性を促せるのが大きなメリットです。
組織の中では受け身になってしまいがちな対象者に、自主性を持ってもらうことで、今までにない大きな成長も期待できます。
また、答えを見つけるために自分自身との対話が必要になるコーチングでは、指導者が持っているレベル以上の成長が見込める可能性もあります。この点、指導者のレベル以上の内容を提供するのが難しいティーチングでは享受できないメリットです。
対象者の自立を促し、より大きな成長を見込めるのが、コーチングということです。
コーチングのデメリット
コーチングは、短期間では終わらず、中長期的な時間の確保が必要な点がデメリットです。
一度に複数を対象とすることが可能で、短期間で終わるティーチングとは異なり、コーチングは1対1が基本で、ゆっくり時間をかけていく必要があるからです。
特に元から自主性があまりない人の場合は、自分で考える習慣を身に付けるところからスタートしなければならず、より時間がかかります。
また、「相手の可能性を引き出す」というコーチングならではの特殊なスキルが必要となるため、誰でもコーチングができるわけではないという点もデメリットです。
そのため、指導者による成果のばらつきがあり、同じコーチングの項目でも成長具合が異なることがあります。
ティーチングの効果を上げるポイント
ここでは、ティーチングの効果をより上げていくために意識しておきたいポイントについて紹介します。どれも重要なポイントとなるため、全て確認しておきましょう。
できるだけ言語化する
何もスキルや経験のない人たちに新しい物事を教える場合は、抽象的な表現ではなく、なるべく具体的に言語化して指導をするようにしましょう。
抽象的な表現ばかりでは、対象者が話を理解することができないままティーチングが進んでしまいます。最悪の場合、何も分かっていないまま実践へと向かってしまうという事態を招く可能性もあります。
「自分ならこの伝え方で理解できる」とは思わず、「何も知らない人にはどれくらいまで言語化すれば伝わるだろうか」ということを常に意識しましょう。
言語化を心がけることによって、より短い時間でより効果的なティーチングを実現できるようになります。
具体例を示しながらお手本を見せる
言語化以外にも、具体例となるようなケーススタディを用意し、「自分ならどう対処するか」というお手本を見せることで、対象者の理解はより深まります。
ティーチングでは座学での指導が基本となりますが、オリエンテーション形式のより実践的な指導も取り入れてみましょう。そのほうが指導者も理解しやすく、高い効果を発揮します。
その際に忘れてはならないのは、お手本を見せて終わりではなく、実践練習をさせ、それに対するフィードバックを行うことです。
若干、コーチングの要素が入りますが、そうしたほうが受動的になりがちな対象者のモチベーションも上がるためおすすめです。また、フィードバックは課題点ばかりを指摘するのではなく、良かったところもあわせて褒めるようにしてください。
理解度チェックのテストをする
効果的なティーチングを実践したつもりでも、対象者が内容を理解していないまま実践へと向かわせるのはよくありません。
そのため、ある程度ティーチングが進んだら、振り返りのチェックテストを実施するようにしましょう。テストをすることで、対象者の理解の穴を発見でき、すぐに修正ができます。
復習は一番理解が定着する勉強方法です。ミスがあれば何度も復習させて、徹底的に理解を深めるようにしましょう。
また、テストで間違いが多い点は、これから同じ内容のティーチングをするときにより重点的に指導しなければならないポイントということのため、次回の参考にしていきましょう。
コーチングの効果を上げるポイント
続いて、コーチングの効果を上げるポイントを紹介します。ティーチングに比べて少し特殊なスキルが必要となるコーチングですが、こちらも必ず確認しておきましょう。
コーチングは世界的にも重要度が高いスキルとされており、様々な資格があります。企業向けにOJT研修を提供しているリスキルという研修会社では、コーチング資格も紹介しています。
参考:コーチングによる人材育成の方法とは?【上司・人事向け】
対象者の話を聞き、自主性を尊重する
「指導者による一方的な指導」を主とするティーチングとは異なり、コーチングは対象者の自主性が一番大切です。
そのため、コーチングの中で対象者が話したことにはしっかりと耳を傾け、対象者の自主性を尊重するようにしましょう。
対象者の発言を真っ向から否定するなど、対象者の自主性を潰すような言動はしてはいけません。
「この人には何を言っても反対されてしまう」と一度思われてしまうと、対象者のモチベーションは下がってしまい、「自分自身の中から答えを出す」という一番の目的から遠ざかってしまいます。
「何か違う」と思うところがあっても、否定はせずに「こういう考え方もありますよ」とアドバイスをしてあげるようにしましょう。
積極的に疑問や質問を投げかける
自分自身の中から答えを出そうと努力していても、どうしても行き詰まってしまうことはあります。
そんなときは、答えに近付くための気付きを得られるような疑問や質問を、積極的に投げかけましょう。
行き詰まっているところをみると、答えを差し伸べたくなってしまいます。しかし、粘り強く質問を投げかけることで、対象者が自発的に答えを導く能力が伸びていきますので、ぐっと我慢しましょう。
時間がかかるかもしれませんが、コーチングとは長く時間をかけて進めていくものです。うまく進んでいかないこともあるかもしれませんが、対象者のことを信頼して、一緒に成長できるように歩んでいきましょう。
ティーチングとコーチングの違いを理解して活用しましょう
この記事では、ティーチングとコーチングの違いや、メリット・デメリットについて紹介しました。
ティーチングとコーチングは、どちらかが優れているものではなく、どちらも人材の教育に必要な手段です。対象者の知識や経験が浅く、緊急性がある場合はティーチング、そうでない場合はコーチングが適しています。
指導者側も、コーチングとティーチングではすべきことが異なります。両者の違いを理解して、対象者との接し方をあわせることが大切です。
場面によって使い分け、時には併用しながら、ティーチングとコーチングを取り入れていきましょう。