コーチング心理学」という言葉を聞いたことがあっても、「コーチングに心理学を使うこと?」と、その意味や活用方法、効果を正しく理解している方は少ないのではないでしょうか。

そこでこの記事では、コーチングの基本的な知識から、コーチング心理学の定義、具体的な活用事例、学習方法などを詳しく解説します。コーチング心理学について知りたい方は、ぜひ参考にしてください

コーチングとは?基本や歴史を解説

そもそも「コーチング」とは、どのようなものなのでしょうか。まずはコーチングに関する基本的な知識と歴史について詳しく解説します。

コーチングの内容や歴史

コーチングは、英語の「Coach」という言葉に由来します。Coachとは馬車のことで、大切な乗客を望む場所まで無事に送り届ける役目を負っていたことから、「相手が希望していることをサポートする」という意味で、コーチングと呼ぶようになったと言われています。

また、1959年にマイルズ・ メイスがその著作である「The Growth and Development of Executives」の中で、「マネジメントにおいてコーチングは重要なスキルである」と記載したことが始まりとされています。

その後、1980年代になるとコーチングに関する多くの出版物が刊行されることになりました。さらに1990年代に入ると、米国でコーチ育成機関が相次いでコーチングビジネスをスタートさせます。

そして、非営利団体であるICF国際コーチング連盟( International Coaching Federation)が、コーチのクオリティ維持を目的として設立されたのをはじめとして、こうした動きは世界中に拡大していきました。

現在では個人や組織の目標達成をサポートするために、ビジネス・教育・スポーツなどさまざまな分野において活用されており、リーダーシップ開発や組織開発を目的として多くの企業・組織が、コーチングを導入しています。

コーチングとティーチングを比較

コーチングと似ている言葉にティーチングがあります。ティーチングは英語の「Teach」に由来する言葉です。

学校で先生が生徒に授業をするように、コミュニケーションのスタイルは原則として一方向になります。これに対してコーチングは、コーチする側がコーチングを受ける側に質問を投げかけ、回答を受け取ることを繰り返します。

つまり、インタラクティブ(双方向)なコミュニケーションが必要となるのです。

ティーチングでは教える側が豊富な知識に基づく明確な回答を持っているのに対して、コーチングではコーチングを受ける側に、自分の頭で考えてもらい、自分なりの回答を引き出すことになります。

コーチングでは回答を「教える」のではなく、自分の力で導き出す手伝いをするコミュニケーション技術なのです。

コーチングとコンサルティングを比較

コーチングと似ている言葉には、ティーチングだけでなくコンサルティングという言葉もあります。

コーチングとコンサルティングが似ている点は、回答そのものは提示せず、回答を導き出すための手伝いをするという部分です。

ただし、コンサルティングの正解は、クライアントがすでに持っていることに気付いていない場合も多いため、学校の先生のように正解を教えるティーチングに近いスタイルを使うコンサルティングもあります。

それでは何が違っているのかと言うと、課題の位置付けが異なります。コーチングは将来の目標や将来的に発生するかもしれない問題に対して、解決策を見つけようとするものです。

一方でコンサルティングは、すでに発生している問題に対して、専門的な知識を有する経験豊富なコンサルタントが、解決するための手段・方法をクライアントが導き出す手伝い(あるいは最適な解法の伝授)をします。

コーチングとカウンセリングを比較

さらにコーチングと類似している言葉にカウンセリングがあります。

カウンセリングとは、精神的な悩みを抱えた人が受けるケースが多いため、相手の精神状態が異なる点に違いがあります。

コーチングの場合、相手の状態はフラットあるいはプラスだと考えられます。カウンセリングが精神状態をマイナスからフラットあるいはプラスにすることが目的だとすれば、コーチングはフラットな精神状態をプラスに(プラスの場合はより大きくプラスに)転じさせることが目的と言えます。

また、カウンセリングは現在あるいは過去の問題が対象になります。将来の目標に向けて行われるコーチングとは、対象となる課題や問題の時点が異なっているのです。

コーチングの課題

コーチングは双方向のコミュニケーションを通じて将来的な目標や課題の解決を図る方法ではありますが、全てに対して万能の解決策ではありません。

例えば、答えを見つけづらいこともありますし、ネガティブな状況になると思考しづらいこともあります。このようなコーチングの「課題」について具体的に解説します。

答えを見出しづらいことがある

コーチングの課題としてまず挙げられるのは、答えを見出しづらい場合があるということです。

具体的には下記のようなことが考えられます。

  • 目標やゴールのイメージが自分にとって大き過ぎる
  • 目標やゴールを達成する具体的な道筋や手順がイメージできない
  • 選択肢が多過ぎるので何をどうやって選んだら良いのか分からない
  • そもそも目標やゴールが浮かばない

コーチングを求めている方が上記のような状態である場合には、どんなに考えても答えを探し出すことが難しくなってしまいます。

コーチングを受けるためには、将来に対する自分の姿を想起することや、そのために何をしたら良いのだろう、という前向きな思考やスタンスが必要になります。しかし、イメージすることを拒んでいては、良いコーチングに結び付けることが困難になります。

ネガティブな状況になると思考しづらいことがある

コーチングを受ける側がネガティブな状態である場合や、思考できる状況にない場合はコーチングが難しくなります。このような場合はコーチングの範囲外となってしまうケースがあり、具体的にはカウンセリングが必要になると考えられます。

また、ネガティブな状態の人に無理してコーチングを実施すると、自分ができないことばかりに目が向いてしまい、さらに精神状態が悪化してしまう可能性もあるのです。

コーチング心理学とは

コーチング心理学とは、これまでの心理学における成人学習理論・子どもの学習理論・心理学研究法に基づいたコーチングモデルを活用し、生活や職場における心身の健康や仕事・学業の成果をアップさせるものである、とされています。

ここからは、コーチング心理学について詳しく解説します。

コーチングの課題を解決する心理学的アプローチ

コーチングには「それ以上思考できない状況」という壁が存在しています。このような状況でも効果を発揮できる方法が心理学的なアプローチです。

なお、コーチング心理学の定義としては「コーチング心理学の展望 」という学術記事が参考になります。

コーチング心理学は、すでに確立されている療法的なアプローチに基づいたコーチングモデルを活用することによって、臨床的な問題を持っていない人々の会社や個人的な生活領域における能力を高めるためのものとされています。

つまり、コーチング心理学は、すでに確立した大人の学習や心理学的な研究法をベースとしたコーチングモデルの方法を援用することによって、個人的な生活のクオリティや職場におけるスキル・能力を向上させることが目的なのです。

コーチングに心理学を応用することにより、従来のアプローチでは壁を破ることができなかったネガティブな精神状態にあるような人に対しても、コーチングを提供することが可能になりました。

コーチング心理学は五感や潜在意識を使ったアプローチ

コーチング心理学をコーチングに援用することによって、従来以上にアプローチの幅が拡大すると考えられています。

会話によるコーチングは「左脳的」であり「言語的なアプローチ」となります。一方で、心理学的なコーチングは、「右脳的」であり「非言語的なアプローチ」になります。

つまり、コーチング心理学においては五感をフルに活用して潜在的な意識に対してもアプローチすることになるため、より幅広い対象・意識・感覚に対してコーチングを実施できるようになるのです。

コーチング心理学の活用事例

コーチング心理学は現在、さまざまな場面で活用されています。ここからは、具体的な活用事例を紹介します。

将来がイメージできない学校の先生

ある学校の先生は、職場の先輩教師に「3年後をイメージして働きなさい」と言われたそうですが、それを理解できず、先輩からよく叱られるようになってしまったそうです。

そうしているうちに自信をなくしてしまい、「自分は教師に向いていないのではないか」と悩むようになりました。

そこで、心理学的なアプローチを用いて本人を観察したところ、視覚的な感覚よりも身体的な感覚が得意だということが判明しました。これはつまり、イメージするよりも情報処理(感じること)のほうが、この人に向いているという発見です。

結果的に、情報処理というアプローチを用いたことで、本人もイメージできるようになったと言います。イメージできなかったわけではなく、イメージする方法が分からなかっただけなのです。

何をすれば良いのか分からない起業家

ある起業家は、起業を目指していたものの、やりたいことが多過ぎて何から手を付けたら良いのかが分かっていない状態でした。

そこで心理学的なアプローチを活用します。過去の成功体験を思い出してもらい、「その成功体験のどんな点が嬉しかったのか」という点について抽出してもらったのです。

そして、成功体験を心の中に維持したまま、実現したいことを明確にしてもらうよう促しました。その結果、自分がやりたいことを整理でき、起業に向けて進めるようになったと言います。

このように、「過去の成功体験に基づいて、自分が本当にやりたいことを抽出する」というアプローチは、従来のコーチングにはなかった手法です。

コーチング心理学の学び方

それでは、コーチング心理学はどのような方法で学べるのでしょうか。ここからは、具体的なコーチング心理学の学習方法について解説します。

実際にコーチング心理学を受けてみる

コーチング心理学を詳しく知るためには、実際にどのようなことが行われているのかを、自分で体験してみるのがおすすめです。

無料の体験会をはじめ、2,000〜3,000円程度で体験できる場合もあるため、コーチング心理学に興味がある人にとっては有用な機会になるでしょう。

本などで独学する

コーチング心理学に関する書籍を利用して学習するという方法もあります。独学であれば、最小限のコストで学習できるため、自己学習の習慣がある人にとっては適しています。

ただし、本などによる自己学習の場合には、分からない部分があっても確認できないため、ただ本を読んでいるだけではスキルがあがりません。もし副業や起業を考えている場合には、本だけではなく他の方法でも学ぶ必要があるでしょう。

コーチングセミナーや企業の研修を受ける

コーチング心理学に関するセミナーや、企業の研修を受けて学習するという方法もあります。セミナーや研修であれば、実際にコーチング心理学を実践している講師が教えてくれるため、本格的な知識やスキルが身に付きます。

講師や人気度や知名度にもよりますが、費用は10,000〜30,000円前後です。スクールに比べ費用が安く済むというメリットがあるものの、単発のセミナーや講習を受けるだけでは、コーチング心理学を実践する機会が少ないので、十分なスキルを身に付けることは難しいかもしれません。

副業や独立を目的にスキルを習得したい方は、コーチングスクールに通うほうが結果的に良い場合もあります。

コーチングスクールで学ぶ

副業や起業を考えている方は特に、コーチングスクールで学ぶ方法がおすすめです。コーチングスクールに通うことで、資格を取得できるケースもあるため、顧客を集める際にアピールできるというメリットがあります。

また、座学だけではなく、コーチング心理学を実践できる機会も多く設けられているので、何度も繰り返すことで確実にスキルが身に付いていくでしょう。

ただし、スクールに通うためには時間と費用が必要になります。例えば、米国NLP協会認定の資格が取得できる日本NLP能力開発協会のスクールで、基本コース「NLPプラクティショナーコース」を受講する場合、費用は297,000円(税込)必要です。

さらに、本格的な実践するスキルが身に付く「認定NLPトレーナー養成コース」となると、726,000円(税込)かかります。

ですが、取得できる資格によっては、比較的安い費用で受けられるスクールもあるため、自身が学びたいコーチングの内容や資格によって、どのスクールに通うか選ぶことをおすすめします。

コーチング心理学はコーチングの課題を解決できる

コーチング心理学は心理学的なアプローチをコーチングに援用したものです。心理学的なアプローチ(五感や潜在的な意識を利用したアプローチ)を利用してコーチングを行うことにより、ネガティブ状態の人であっても効果的なコーチングを実施することが可能になります。

つまり、コーチング心理学はこれまでのコーチングの課題をクリアできる新しい考え方なのです。

勉強方法としては書籍やセミナーの受講のほか、スクールに通う方法があります。どのような場面で活用したいのかを明確にしたうえで、自分にあったコーチング心理学をぜひ学んでみてください。