この記事では、「コーチング型マネジメントの活用場面を知りたい」「コーチング型マネジメントを仕事や組織に活用したい」と思っている方に向けて、コーチング型マネジメントの意味とメリット、活用場面や注意点、勉強方法を詳しく解説します。
また、コーチング型マネジメントと指示命令型マネジメントの違いについてもまとめていますので、コーチング型マネジメントについて詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
コーチングとマネジメントの違い
コーチング型マネジメントを理解するにあたって、まずはコーチングとマネジメントのそれぞれについて理解を深めておく必要があります。
コーチングとは
コーチングの語源は、人が望むところまで送り届ける「馬車」からきており、対象者をゴール(目的地)まで運ぶ人のことを「コーチ」と呼びます。
コーチングという言葉は馬車から派生し、「対象者の目標達成のために支援する」という意味で使われるようになりました。
今ではコーチングは、ビジネスだけでなく教育や子育て、スポーツなど幅広い分野で使われています。
ビジネスでのコーチングは、部下が自分自身で問題解決ができるように上司がサポートし、目標達成のために支援していくコミュニケーション方法のことを指します。
目標の達成に向け部下の自主性を高めるコーチングは、上司が部下に全てを指示する管理型のマネジメントに代わる新しい人材育成方法として、多くの企業で導入されています。
マネジメントとは
マネジメントの役割は、組織の目標達成のために、お金や人材などの経営資源を管理しながら、組織を機能させることです。
組織におけるマネジメントの具体的な仕事は、下記の5つに分けられます。
- 目標の設定
- 目標達成に向けた組織づくり
- 動機付けとモチベーションの維持
- 人員の評価とフィードバック
- 人材の育成
マネジメントは組織を運営するだけでなく、人材育成にも関わっていくため、コーチングを取り入れることが可能です。
目標の設定や、評価・フィードバック、人材の育成など、コーチングと共通している要素もあります。
組織全体を扱うマネジメントの中にコーチングの要素を組み込むことで、今まで以上に活発に組織を運営することができるようになります。
コーチング型マネジメントとはコーチングを取り入れた新しいマネジメント方法のこと
コーチング型マネジメントの目的は、「部下が自分自身の考えで判断する」「自主的に動けるようになる」ことです。
これまでのマネジメントの要素に、「自発的に動けるようになる」というコーチングの要素を大きく取り入れています。
ただ、コーチングは目標達成を目的としていますが、コーチング型マネジメントはあくまでも、組織の運営のため、目標の達成自体を目的としていません。
コーチング型マネジメントは、目標達成が目的ではなく、部下が目標達成のために自主的に行動して解決する力を身に付けることや、知識や学びを促進させることを目的としているのです。
コーチング型マネジメントと指示命令型マネジメントの違い
指示命令型マネジメント | コーチング型マネジメント | |
メリット | ・一度に多くの人間を育成できる・ノウハウや価値観を統一できる・育成スピードが速く、効率的 | ・相手の考える力、自発性を育てられる・相手の可能性を引き出すことができる・相手の個性を活かすことができる・相手の学習力を上げることができる |
デメリット | ・教える側の経験やスキルに左右される・教えられる人の個性は生かささない・教えられる側は受け身になってしまう | ・ある程度の時間が必要・一度に多くの人間を育成するのは難しい・相手に全く知識や経験がない場合は効果がほとんどない |
これまで一般的に行われていた指示命令型マネジメントでは、上司が部下にやるべきことを指示する形になるため、問題解決自体は上司の役割でした。
しかし、コーチング型マネジメントでは、部下が自分で問題解決の方法を考えて取り組むので、問題解決は部下の仕事になります。
部下が自分自身の失敗や間違いから学ぶことで、今後の成長につながっていくのです。
組織でコーチング型マネジメントが有効な場面
それでは、コーチング型マネジメントは、具体的にどのような場面で活用できるのでしょうか?ここでは、組織でコーチング型マネジメントが有効な場面について、具体的に解説します。
緊急ではないが重要なことを検討するとき
コーチングは、部下自身が答えを導き出す必要があるため、ある程度の時間を要します。
そのため、緊急性が高く今すぐにでも解決しなければならない問題があるときには、コーチング型マネジメントは向いていません。
しかし、緊急性は低いものの重要なことを検討するときには、比較的時間をゆったりと使うことができるので、コーチング型マネジメントが最も活躍します。
ある程度時間をかけて部下自身に考えさせながら、どうやって取り組むのか計画を立てさせることで、上司が何も指示をしなくても、自分で仕事を進められる力が身に付きます。
対象者にスキル・経験・能力が適度にあるとき
コーチング型マネジメントでは、部下自身が考えて行動し、自らの力で問題解決へ導くことを目的としています。
そのため、部下に全く経験やスキル、知識がないときには、自分で解決する力が足りず、コーチングが役に立たないことがあります。
しかし、ある程度のスキルや経験を持つ部下の場合は、受け身な人であったとしても、自分の力で答えを導き出せます。
効果的なコーチング型マネジメントを実施したい場合は、比較的経験のあるメンバーを選ぶようにしましょう。
対象者の潜在能力や自主性を引き出したいとき
コーチング型マネジメントの最大の魅力は、コーチングを通じて部下が自分自身の潜在能力に気付いたり、自主性を引き出せるようになることです。
これは指示命令型マネジメントでは実現が不可能で、コーチング型マネジメントならではのメリットとなります。
そのため、スキルはあるのに自分の強みに気が付いていない場合や、自分の強みを生かす方法が分かっていない部下の場合は、コーチング型マネジメントが強く効果を発揮することになるでしょう。
コーチング型マネジメントで重要となるスキル
それでは、コーチング型マネジメントを実施するにあたり、具体的にどのようなスキルが必要になるのでしょうか。
傾聴スキル
コーチング型マネジメントでは、部下が安心して思っていることを話せるよう、聴き上手になる必要があります。これを「傾聴」と呼び、コーチングにおいては重要なスキルです。
ただし、部下の話をなんとなく受け取るのではなく、部下が一体どのようなことを伝えたいのかまで汲み取ろうとすることが大切です。
間違っても、部下の話を遮ったり、部下の考え方を否定するような言い方をしてはなりません。
質問スキル
コーチング型マネジメントは、部下に質問を投げかけ、それに対し深く考えを巡らせることで、自分の中から答えを導くことを目的としています。
コーチングでは、部下が自分で考える能力も大切ですが、それ以上にコーチ側の「質問スキル」も必要です。
現在の部下には一体どんなことが必要なのか、何をすれば良いのかをじっくり考えられる質問をすることが大切なのです。
承認スキル
コーチング型マネジメントをしている中で、少しでも部下のモチベーションをあげるために必要なのが「承認スキル」です。
人は誰しも、誰かから承認されることによって、やる気やモチベーションをあげられます。コーチングをするときもそれは同じです。
部下が良い言動をしたのであれば、それを受け入れ、心の底から褒めてあげることで、部下はさらにモチベーションがあがり、自発性も上昇します。
コーチング型マネジメントを実施する際の注意点
コーチング型マネジメントを実際に実施する場合、事前に知っておきたい注意点もあります。
ここでは、コーチング型マネジメントを実際に行うときに意識しておきたいポイントを紹介します。
多くの人を一度にコーチングしない
コーチング型マネジメントは、ティーチングや指示命令型マネジメントとは異なり、一度に多くの人間を対象にすることが難しいです。
コーチングは基本的にコーチと相手が1対1となって進めていくものなので、一度に多くの人を相手にしてしまうと、効率が悪くなり一人にかけられる時間が短くなってしまいます。
そのため、コーチング型マネジメントを実施する場合には、できるだけ少ない人数、できれば1対1で行うようにしてください。
目に見えた効果がすぐには出ないことを認識する
そもそもコーチングは、効果が出るまでに時間がかかります。
投げかけた質問に対して、相手が自分自身で考える時間も必要ですし、それによって少しずつ相手の自発性が養われていくのにも時間を要します。
コーチング型マネジメントを実施する場合も同じで、コーチング型マネジメントを始めたからといって、すぐに目に見えて効果が出ることはありません。
ゆっくりと時間をかけて行うことで、少しずつ効果が現れ始めます。そのため、短期間で結果を出す必要があるプロジェクトなどには、コーチング型マネジメントは向いていないと考えておきましょう。
コーチとの相性や対象者の意識によって効果が左右される
コーチング型マネジメントの効果は、コーチとの相性や、相手の意識に大きく左右されます。
コーチとの相性が悪いと、対象者が「思い切って話せない」「萎縮してしまう」ということが起こり、コーチングの効果が上手く発揮されません。
また、コーチとの相性以外にも、コーチングを受ける相手の意識も大切です。コーチングをしていても全然やる気が感じられないようでは、成長の幅は小さくなってしまいます。
そのため、どれだけ優秀なコーチでも、相手によっては全然効果が出ないこともあるということを覚えておきましょう。
コーチング型マネジメントを学ぶのにおすすめの本
コーチング型マネジメントを手軽に学ぶには、まずは書籍で知識を得るのがおすすめです。ここでは、コーチング型マネジメントについて詳しく知るためにおすすめの本を紹介します。
コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる/著:伊藤 守
『コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる』は、日本におけるコーチングの第一人者である伊藤守さんがコーチング型マネジメントのために執筆した本です。
「今、コーチング抜きにマネジメントは語れない」そう語る伊藤守さんが、「なぜ戦略が社内に徹底されないのか?」「なぜ組織は変わらないのか?」というような組織の課題を解決するために、どのようにコーチングを組み込むべきかを紹介しています。
初版が2002年のため、日本におけるコーチングの古典とも呼べるような一冊です。コーチング型マネジメントをしようと考えている方は、必ず読んでおきましょう。
新 コーチングが人を活かす/著:鈴木 義幸
『新 コーチングが人を活かす』は、日本におけるコーチングの最良の入門書とも呼ばれている一冊です。
コーチングが、ビジネス・教育・人間関係など、幅広く効果を発揮すると日本に広めた本で、著者である鈴木義幸さんが、豊富な事例を交えながら、コーチングについて解説しています。
項目毎に分かれているので、全部を読んでスキルとして身に付けるのも良いですし、自分が欲しいと思っているスキルの部分だけ読んでみるのも良いでしょう。
最高のコーチは、教えない。/著:吉井 理人
プロ野球界で投手のコーチをしている著者、吉井理人さんが、コーチングのツボをおさえて解説している一冊です。
現在メジャーリーグで大活躍している、大谷翔平選手のコーチをしたこともある吉井さんが、「教える」のではなくて「考えさせる」コーチングの方法について紹介しています。
本のタイトル通り、コーチとして「教えない」「相手に考えさせる」という、コーチングの本質を見事に突いた一冊です。
コーチングをしていても、ついつい答えを教えてしまうコーチの方におすすめです。
できる上司は会話が9割/著:林 健太郎
著者である林健太郎さんは「リーダー育成家」として活動をされており、これまで数多くのリーダーへコーチングをしてきた実績のある方です。
日本を代表する大企業の経営者やリーダーに対して「エグゼクティブコーチング」を行っており、その人数は500人にも登ります。
そんな林さんが、部下のマネジメントをする際に必要なことを、コーチングの要素を入れながら分かりやすく解説しています。
主に、部下に対するコミュニケーション方法について書かれており、部下との接し方に悩んでいる上司の方におすすめの一冊です。
3分間コーチ ひとりでも部下のいる人のための世界一シンプルなマネジメント術/著:伊藤 守
伊藤守さんが手がけた、コーチング型マネジメントのノウハウを詰め込んだ1冊です。この本は、短い時間で実践できるコーチング型マネジメント術について書かれています。
新しくリーダーに抜擢された方、部下をマネジメントする時間が全然なくて困っている方のために、日常のたった3分で実践することができるマネジメント術を紹介しています。
コーチング型マネジメントを勉強する方法
最後に、書籍以外でコーチング型マネジメントについて勉強する方法を紹介します。本格的にコーチング型マネジメントを学びたい方は、ぜひ参考にしてください。
スクールで体系的に学ぶ
コーチングをスクールで学ぶことで、専門的な知識だけでなく、実際に誰かにコーチングを実践するという機会をつくれます。
第一線で活躍しているプロ直々に、コーチングに関するスキルや考え方を体系的に学習することができるため、独学が不安な方にはおすすめです。
ただし、スクールは長期間通わなければならないケースや、高額な費用がかかる場合もあります。
何のためにスクールに通うのかを事前に決めて、費用などをしっかり確認しておきましょう。
実際にプロコーチからコーチングを受ける
実際にプロのコーチからコーチングを受けてみて、コーチングとはどのようなものなのかを体験してみるのもおすすめの勉強方法です。
コーチングの勉強をしながら、自分自身もコーチングを受けることができるので、効果としては一石二鳥です。
1日体験などであれば費用も比較的安く済むケースがあるため、コーチング体験セミナーなどを探してみましょう。
可能であれば、コーチングを体験する前に書籍などを読んでコーチングについて事前に知識を得ておくと、さらに効果があがるでしょう。
自分でコーチングを実践する
コーチングを身に付けるには、書籍を読むだけではなく、実際にコーチングを実践する必要があります。
自分でコーチングの練習をしたいと考えたときに問題なのは、コーチングの練習につきあってくれる相手が必要なことです。
そのため、まずは練習相手になってくれる人を探す必要があります。依頼しにくいという場合は、家族にお願いしてみるのも良いでしょう。
また、コーチングを勉強している仲間をネットやSNSで探して、オンラインでお互いに実践しあうという方法もおすすめです。
コーチング資格を取得する
特定のスクールに通うことでコーチングの資格を取得できます。コーチングの資格を持っていることで、部下からのコーチングに対する信頼も厚くなるでしょう。
また、コーチングのプロとして独立したい方や、副業としてコーチングをしたい方にもおすすめです。
コーチングの資格の中には国際資格もあるため、取得すれば世界レベルでコーチとしての活躍の場も広がります。
ただし、資格を取得するためには費用がかかるケースが多いため、気になるスクールの費用面や資格取得までの期間、取得できる資格の種類を確認しておきましょう。
指示命令型マネジメントをコーチング型マネジメントに変えてみるのも一つの手
この記事では、コーチング型マネジメントの特徴やメリット・デメリット、勉強方法について紹介しました。
コーチング型マネジメントは、部下の自発性をあげたり、成長スピードをあげたりとメリットが複数あります。
そのぶん時間がかかることや、一度に多くの人間を対象にできない、といったデメリットもありますが、コーチング型マネジメントを実践することで、部下の仕事への意識や行動力が大きく変わる可能性があり、部下のモチベーションアップにも期待できます。
「指示命令型マネジメントでは思ったようなマネジメントができない」と感じている方は、コーチング型マネジメントを試してみてはいかがでしょうか。