コーチングを取り入れる際、どのような手法で行えばよいのかについては、意外と知られていないかもしれません。
そのため、せっかくコーチングを導入しても「うまくいかない」「何が悪いのか分からない」という悩みを抱える方が少なくありません。コーチングを取り入れるからには、基礎を理解することが大切です。
そこでこの記事では、コーチングの3原則と進め方を踏まえたうえで、コーチングに取り入れたい手法について詳しく解説します。
コーチングの3原則
コーチングとは、対話によってクライアント(相談者)が本来持っている力を引き出し、自発的な行動を促すことで目標達成を支援するための手法のことです。
ビジネスやスポーツ、教育現場などでも、個人の力を引き出すためにコーチングを取り入れているケースがあります。
ここではまず、コーチングを導入するために重要な3原則について詳しく解説します。
インタラクティブ(双方向)
コーチングをうまく進めるには、一方通行ではなくインタラクティブ(双方向)なアプローチが必要です。
コーチングをする側とされる側の立場が、上司・部下の関係であったり年齢の差があったりすると、一方的・指示的になる可能性があるからです。
双方向でコミュニケーションを取ることは、相手が自発的に考えるようになるための下地となります。
一方的なコミュニケーションだけでなく、相手にも考える機会を与え、意見をいわせることで、目標の達成に近づきやすくなるのです。
オンゴーイング(現在進行形)
オンゴーイングとは、継続的に働きかけを行うという意味の言葉です。コーチングは一度行えばすぐに効果が出るものではないため、繰り返し行うことが重要となります。
コーチングによって目標達成のために何が必要かを理解できたとしても、具体的なアクションを落とし込むステップでつまずく場合があります。
継続してコーチングを行い、「取り組み・反省・再試行」のサイクルを繰り返していくことで、人は確実に変化していくのです。
テーラーメイド(個別対応)
コーチングにおける3つ目の原則は、テーラーメイド(個別対応)です。
コーチングは、人それぞれにあわせた対応が必要になります。例えば、個人差を無視して、一つのやり方を押し通すコミュニケーションは良くありません。
また、同じ言葉をかけても相手によって受け止め方が異なるため、個別対応が求められるのです。
褒める、叱るを繰り返して育てる単純なやり方ではなく、個人の個性やタイミングにあわせて冷静に見極めることが大切です。
関連記事:コーチングの正しいやり方とは?4つの基本ステップと大切な要素を解説
コーチングを進める方法
コーチングを導入する際は、コーチングを進めるための方法を知っておく必要があります。
ここからは、どのようにすればコーチングをうまく進められるのかについて解説します。
現在地を確認する
1つ目のステップは、「現在地を確認すること」です。
そもそも、今どんな状況にあるのか、定めている目標に対して進捗はどうなっているのか、などがあげられます。
目指している目標に対して、現在はどのような状況なのかを確認し、目標との対比を明確にすることで、どのようにしてゴールを目指すのか、そのための現状の課題は何かを考えやすくなります。
目的や目標を具体化する
現在地が分かったら、目的や目標を具体化することも、コーチングを進めるにあたって重要です。
目指すべきゴールが曖昧なままだと、何を目標にすればいいか分からず、コーチングがうまく機能しなくなります。
明確なゴールとなる「目指す目標・目的」をしっかりと定めて現在地と比較することで、解決するべき課題やゴールにたどり着けない理由・問題点などが分かってきます。
現状を変えることで、どのような状態に持っていきたいかを明確にしておきましょう。
リソースを明確化する
目的や目標の具体化ができたら、そこに向かうために必要なリソースを明確化してください。
目標達成のために必要なお金や環境・時間・能力などはすべてリソースと呼びます。
まずは、クライアントが持っているリソースを確認し、どのような場面で使えるかを整理していきましょう。
コーチングをするときには、クライアントのリソースをうまく引き出して有効活用できるようにサポートすることが大切です。
行動計画を作成する
ゴールにたどり着くためには、具体的な行動計画が必要です。
本当に達成が可能な目標なのかを見直し、現実的に見てどのような手順で進めていけばいいのかなどを詳しく精査する必要があります。
最後に、手順の中で欠けているものや、ほかに必要なものがないのかなどをクライアントと確認しながら、計画の精度を高めていきましょう。
コーチングの代表的な手法「GROW」モデル
コーチングの代表的な手法に、「GROW」モデルがあります。「GROW」とは、コーチングの基本プロセスの頭文字を並べたものです。
- GOAL(目標を明確化する)
- REALITY(現実を把握する)
- RESOURCE(リソースを見つける)
- OPTIONS(選択肢を考案する)
- WILL(目標達成の意思確認をする)
ここでは、「GROW」モデルについて詳しく解説します。
GOAL(目標を明確化する)
コーチングをするにあたって重要なのは、明確な目標となる「GOAL」です。
どこを目指しているのかが明確になっていなければ、はじめの一歩を踏み出すことができません。
そのため、目標としていることを聞きだし、なおかつ低めの目標であればもっと高い目標を持てるように導くことが大切です。
より具体的な目標を設定することでクライアントのモチベーションも上がるため、相手の目指すものをしっかりと聞きだしましょう。
REALITY(現実を把握する)
目標が決まったら次は現状把握です。この段階は「REALITY」と呼ばれます。
現状どこまで達成できているのか、それ以上進むためには何を用意して、どうすればいいのかなどを具体的に考える必要があります。
また、この段階で重要なのは、クライアントがどの程度まで状況を理解しているのか、これからどうしていきたいのかをしっかり聞き取ることです。
ただし、コーチする側が一方的に進むべき方向を決めたり矯正したりしてはいけません。あくまでも、相手の意思にゆだねることが大切です。
RESOURCE(リソースを見つける)
「RESOURCE」(リソース)を見つけることも、コーチングの重要な要素です。
リソースは、相手方が使える能力や時間・費用・人材などを指します。
何がどの程度使えるのかを把握しておくことで、ゴールにたどり着くための道筋が見えてくるでしょう。
相手が自分のリソースを整理しやすいように「目標達成のために助けてくれる人はいるか」「目標のためにかけられる時間はどのくらいか」などの質問をしていきます。
OPTIONS(選択肢を考案する)
コーチングにおいては、「OPTIONS」つまり選択肢を考えることも重要な要素です。
柔軟な発想のもとに、ゴールにたどり着くまでに必要な選択肢・アイデアを可能な限り相手から引き出します。
実現できるかどうかは後から考えるため、たとえ現実的でない選択肢やアイデアでも構いません。大切なのはアイデアをどんどん出していくことです。
相手から出た多くの選択肢の中から、目標達成のためにどの方法を選ぶのがベストかを選んでいきます。
WILL(目標達成の意思確認をする)
最後の「WILL」というプロセスでは、意志の確認をしていきます。目標の先延ばしやゴールまでたどり着けない、という事態を回避するためです。
目標達成のために「何をどのように取り組みたいか」といったクライアントの意志を確認します。
「いつまでに目標達成したいのか」「まず何からはじめるのか」を相手に問いかけ、相手自身に決めさせることで、自主性が育っていきます。
コーチングで取り入れたい手法の種類
GROWモデル以外にもコーチングで取り入れたい手法には、いくつかの種類があります。
種類ごとに特徴があるため、クライアントとの特性を見極め、最も相性のいい手法を取り入れるようにしましょう。
ここでは、3つの手法について詳しく解説します。
NLPコーチング手法
NLPコーチング手法は、一般的なコーチング手法に加えて、心理学を取り入れたコーチング手法です。
NLPコーチングとは
NLPとは日本語に訳すと「神経言語プログラミング」という意味になります。
心理学をベースに深層心理に働きかける手法なので、クライアントが本来持っている能力や可能性をうまく引き出し、目標達成のためのサポートが可能です。
一般的なコーチングでは難しい「思考や行動パターンの変化」「ゴールを妨げるマイナス面の解消」などが実現しやすい手法だといわれています。
NLPコーチングでは、重いPTSDに苦しむ方などに対しても行われており、実際に改善性や有効性が認められています。
NLPコーチングの活用の仕方
コミュニケーションを重視しているNLPコーチングは、活用の幅が広くさまざまなシーンで使うことが可能です。
例えば、部下を育成するだけでなく、相手からリソースを引き出す際にも使用できます。また、日常生活でコミュニケーションが重要となってくるシーンでも有用です。
「自分自身を変えること」「ポジティブな考え方に変えること」を実現することにより、職場の人間関係や、友人関係、夫婦関係の改善などに活用できます。
エグゼクティブコーチング手法
エグゼクティブコーチング手法は、ビジネスパーソンの中でも、企業にとって影響力の高い「経営陣」や「管理職」が、自分自身を振り返るためのものとして使われるコーチング手法となります。
エグゼクティブコーチングとは
エグゼクティブコーチングとは、企業内での立場が上がることで、フィードバックを得られる機会が減ってしまった方を対象に行うコーチングです。
経営者や企業幹部、管理職にある方々は、常に意思決定や高度な意見が求められ続けます。
しかし、第三者からの意見やアドバイスをもらう機会は少なく、さらなる成長が難しい傾向にあります。
そのため、定期的に自身を振り返る目的として「エグゼクティブコーチング」が活用されるのです。
エグゼクティブコーチングの活用の仕方
エグゼクティブコーチングは、経営者や企業幹部だけに活用されるわけではなく、経営幹部の育成にも利用するケースが多いです。
幹部になり、経営陣に加わるということは、リーダーシップや人材を育てる力が必要となります。このようなスキルを身につけるためには、自分自身を見つめ直すことも重要です。
そのため、経営幹部として、あるいはこれからの企業を担う人材としてのコミュニケーション能力を身につけ、なおかつ自分自身を振り返れるようエグゼクティブコーチングを活用していきます。
エグゼクティブコーチングを通して自分の内面と向きあう機会をつくり、このプロセスを経て、企業にふさわしいリーダーを育成していくのです。
関連記事:コーチング型マネジメントとは?メリット、活用場面を解説
ライフコーチング手法
ライフコーチング手法は、キャリア形成や生き方に対するコーチング手法です。人間関係や恋愛などに特化したものもあります。
ライフコーチングとは
ライフコーチングは、仕事や家庭などあらゆるシーンにおいて大いに役立ちます。
主に、それぞれのシーンにおいてポジティブな心理状態をつくることの手助けをするコーチングです。
ライフコーチングを行うことで、自身の価値観を明確にでき、何が重要なのかに気付けるというメリットがあります。
また、苦手と思っていた人との関係性を変化させる方法を知ることもできます。
ライフコーチングの活用の仕方
ライフコーチングでは、自身が繰り返しているパターンを知り、望む未来を抑制してしまう思考に気付くことで、前向きになれる心理状態を作り出せます。
「職場での人間関係がうまくいかない」「自信がなくて恋愛を諦めてしまう」などといったときにはライフコーチングがぴったりです。
失敗の原因を知り、人生設計における未来予想図を明確化することによって、ポジティブに物事をとらえられるようにしていきます。
目的にあったコーチング手法を取り入れましょう
コーチング手法には、さまざまなものがあります。それぞれの手法で特徴が異なるため、目的にあったコーチング手法を見つけることが大切です。
また、コーチングはビジネスや教育面だけでなく、あらゆる場面で有用な手法のため、うまく取り入れることで、これまでチャンスを逃がしていた理由や失敗の原因なども分かってきます。
自己成長を実感するためにも、コーチングをぜひ取り入れてみることをおすすめします。