コーチングの導入を検討しているものの、「理論が複数あって分かりにくい」「どの理論が自分に向いているかを知りたい」と思っていませんか?

それぞれの理論には特徴があるため、「これがいい」と思ってコーチングをしてみても、目的によっては活用しきれないことが少なくありません。

この記事では、コーチングの基本を踏まえたうえで、代表的なコーチングの理論を紹介します。加えて、どんな人に向いているのかについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

コーチングとは

コーチングとは、クライアント(相談者)が自主的に行う問題解決のサポートを指します。

対象者を勇気づけ、気づきを促すために用いられ、コミュニケーションを通じて、クライアントの自発的行動につなげるのが特徴です。

どのコーチング理論も、「クライアントの目標達成」というゴールは同じですが、それぞれ定義が異なります。

まずは、どのようなコーチング理論があるかを理解し、各コーチング理論の特徴を知ってから、自分にあっているかを理解することが大切です。

コーチングとティーチングの違い

答え目的焦点
ティーチング描かれたものを受け取る短期的な問題や課題の解決人ではなく「事象」に焦点を当てている
コーチング自分自身の中にあるものを探し出す長期的な問題解決や成長問題や課題に対してではなく「人」に焦点を当てている

コーチング理論について解説する前に、まずはコーチングとティーチングの違いについて見ていきましょう。

似ているように感じるコーチングとティーチングですが、クライアントへの接し方が大きく異なります。

ティーチングは、「知りたい」「学びたい」と考えている人に向けたものであり、分かりやすい例では、セミナーや学校などでの授業が挙げられます。

一方でコーチングは、長期的な問題解決やクライアントの成長が目的です。

問題の早期解決よりも、クライアント自身の「気づき」を重要視します。そのため、コーチ側から具体的なアドバイスをすることはほとんどありません。

関連記事:ティーチングとコーチングの違いは?活用例とメリット

コーチングで欠かせない3つの基本スキル

コーチングでは、双方向のコミュニケーションがないと成り立たないため、コーチのコミュニケーションスキルが不可欠です。

コーチングに欠かせない基本スキルには、以下の3つがあります。

  • 傾聴スキル
  • 承認スキル
  • 質問スキル

1つ目の「傾聴スキル」とは、クライアントの話を遮らずに耳を傾けることです。相手の話が間違っていると感じても、まずは受け止めて最後まで聞きます。また、「辛かった」「嬉しかった」などの感情に共感することも重要です。

2つ目の「承認スキル」とは、クライアントの存在を肯定的に認めることです。例えば、結果に対してのフィードバックだけでなく、そこまでにいたる行動や習慣について認めることで、「自分のことを見てもらえている」という喜びにつながります。

3つ目の「質問スキル」は、コーチングにおいてとても重要です。コーチが的確な質問をすることで、クライアントの能力や自発性が高まります。

このように、コーチは3つの基本スキルを活用することで、クライアントとの信頼関係を築いていくのです。

関連記事:コーチングに必要なスキルとは?3つの基本スキルを徹底解説

コーチングを代表する8種類の理論

ここからは、代表的なコーチング理論について紹介します。

  • コーアクティブ・コーチング        
  • 行動コーチング        
  • NLPコーチング        
  • ポジティブ心理学コーチング        
  • オントロジカル・コーチング        
  • インテグラルコーチング
  • インナーゲームコーチング
  • 認知科学に基づくコーチング   

どのコーチング理論にも特徴があるため、目的やシーンに応じて使い分けていくことが大切です。この章を参考に、自分にあったコーチング理論を見つけてみてください。

1.コーアクティブ・コーチング

まずは、コーアクティブ・コーチングについてです。

理論の特徴

コーアクティブ・コーチングとは、「コーチとクライアントは対等な協同関係である」という前提で行うコーチングです。

協同関係とは、お互いが同じ目的を持つ関係性のことで、お互いの利害が一致することを前提としています。また、クライアントの現状よりも、未来への可能性を信じてコミュニケーションを行うのが特徴です。

コーチはクライアントの変化を生み出すことが役割であり、お互いの信頼関係がないと成り立ちません。コーチのスキルも重要ですが、クライアント自身がコーチを信頼することも大切です。

向いている人

コーアクティブ・コーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 人間関係がうまくいっていない人
  • 人の目を気にしすぎて緊張してしまう人
  • 職場やチームとの関わりの中でストレスを感じている人

コーアクティブ・コーチングの礎には、「本質的な変化を呼び起こす」「一瞬一瞬に起きる変化につながりを感じる」という考え方があります。

「今までがどうであっても、解釈の仕方によって変わっていく」という前提でコーチングを行います。クライアントが自分自身と向き合いながら、人間関係などを変化させていける点が特徴です。

2.行動コーチング

次に、行動コーチングについて解説します。

理論の特徴

行動コーチングは、客観的に見える「行動」に焦点を当てるコーチング理論です。

行動コーチングのポイントは、行動と学習を繰り返すことで認知が変わっていく点です。これは学習理論に基づいており、クライアントの意識・無意識に関係なく行った行動や発言についてフィードバックを行います。

行動科学で実証済みの手法でもあることから、クライアントの変化を測定しやすいのがメリットです。

向いている人

行動コーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 組織の問題を解決したい人
  • チームの生産性を上げたい人
  • 組織で具体的な成果を上げたい人

行動コーチングは、定量的な変化が見えやすく、具体的な行動に落とし込みやすいため、組織のトップや管理職、リーダーにおすすめです。

学習理論に基づいているため、計画・行動・確認なども行いやすくなります。また、結果に対するコーチからのフィードバックが反映させやすいのも特徴です。

3.NLPコーチング

次に、NLPコーチングについて解説します。

理論の特徴

NLPコーチングとは、「脳と心の取扱説明書」と呼ばれるNLP(神経言語プログラミング)を活用したコーチング理論です。

NLPコーチングでは、クライアントの「無意識」に焦点を当てます。人の行動の95%は無意識に行われるといわれており、無意識の活用方法を体系化したNLPは幅広く活用されています。

NLPコーチングでは、コーチとの対話を通じて過去の出来事や体験によって作られた思考パターン・行動パターンを変えていきます。

例えば、「〇〇が好き/嫌い」「これは正しい/間違っている」などです。特定の思考パターン・行動パターンによって目標達成が困難になっている場合は、ゴールに向かうためのパターンに最適化していきます。

NLPコーチングはコーチとの対話を通じて自己理解にもつながるため、セルフイメージの向上が期待できるでしょう。

向いている人

NLPコーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 自分自身の強み、才能を理解したい人
  • コミュニケーションスキルを向上させたい人
  • 人間関係の悩みを克服したい人

NLPコーチングは、言語学・心理学がベースとなっているため、コミュニケーションや人間関係の悩みを抱えている人におすすめです。

また、セラピーの分野から体系化された理論のため、コンプレックスの解消や問題解決などを得意としています。

「こうしたらこうなる」というようなパターンを明確にしていくため、結果を妨げるネガティブな行動も軽減しやすくなるでしょう。

4.ポジティブ心理学コーチング

次に、ポジティブ心理学コーチングについて解説します。

理論の特徴

ポジティブ心理学コーチングとは、感情をニュートラルな状態からポジティブな状態に引き上げることを目的とするコーチングです。

ポジティブ心理学は「よい生き方とはどのような生き方か?」などのテーマで研究されており、世界各国で活用が進められてきました。

また、ポジティブ心理学は「ウェルビーイング」を前提にしています。ウェルビーイングとは、「肉体的・精神的・社会的においてすべて満たされた状態」のことです。

コーチとのコミュニケーションによってポジティブな状態が作られると、クライアントの熱意や没頭する力、活力などの向上が見込めるでしょう。

向いている人

ポジティブ心理学コーチングが向いている人は以下の通りです。

  • ストレスに影響されやすい人
  • ネガティブに考えることが多い人
  • 人間関係を改善したい人

ポジティブ心理学コーチングは、悲観的な考え方や思い込みに関する問題を解消していきます。

例えば、何かにチャレンジして失敗したときに、「自分には向いていない」と捉えるか「経験を積むチャンスだ」と考えるかという解釈の仕方に変化させていきます。

コーチは科学的根拠に基づいた効果が実証されている方法でコーチングを行うことが可能です。

5.オントロジカル・コーチング

次に、オントロジカル・コーチングについて解説します。

理論の特徴

オントロジカル・コーチングとは、クライアントの「在り方(ありかた)」にフォーカスを向けたコーチング理論です。

「在り方」とは人そのものの存在の仕方や、本来あるべき形のことを指します。クライアントの能力や行動傾向などを変化させていくため、コーアクティブ・コーチングと似ています。

オントロジカル・コーチングは独自の発展を遂げてきたため、専門用語を多く使用するのが特徴です。その独自性もあり、日本での実践者は少ないといわれています。

向いている人

オントロジカル・コーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 将来に関しての不安が大きい人
  • 人間関係において心配事が多い人
  • ストレスの対処法を知りたい人

オントロジカル・コーチングでは、在り方を変化させるために体・感情・精神を連動させる必要があると考えています。

コーチがクライアントの感情だけでなく、表情や姿勢についても注意深く観察するのが特徴です。クライアントの抱えている不安に注目し、どのように向き合っていくかをサポートしていきます。

6.インテグラルコーチング

次に、インテグラルコーチングについて解説します。

理論の特徴

インテグラルコーチングとは、自己成長と自己変容を目的としたコーチング理論です。アメリカの思想家が創始した「インテグラル理論」がベースとなっています。

インテグラル理論とは、固定観念を外して課題を解決するためのフレームワークです。物事を取り巻く環境を変えず、過ちや欠点などを受け入れるという前提があります。

例えば、「内側と外側」「主観と客観」「具体と抽象」など、物事に対する視点を変えながら解決方法を見つけていきます。

クライアントはコーチからの質問を通じて主観と客観のバランスを磨けるため、自分に足りないものを見つけるきっかけになるでしょう。

向いている人

インテグラルコーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 周囲からの評価に満足できない人
  • 具体的な解決策を見つけたい人
  • 物事をさまざまな視点で見る力を養いたい人

インテグラルコーチングでは自分が達成したい目標に対し、主観と客観で評価します。

例えば、「目標を達成したときにどう感じるか」という質問は、内面的・主観的にどう思うかを問いかける内容です。

一方で、「目標を達成するためには、自分の行動をどのように変えるべきか?」という質問は、外面的・客観的な質問といえます。自分を見つめ直すきっかけになるでしょう。

7.インナーゲームコーチング

次に、インナーゲームコーチングについて解説します。

理論の特徴

インナーゲームコーチングとは、テニスのコーチングモデルである「インナーゲーム」という書籍から発展したものです。

インナーゲームを執筆したW.Tガルウェイ氏は、「人の心の中にはセルフ1とセルフ2が存在する」と主張しています。卓越した成績を残しているテニスプレイヤーの頭の中で、どのような対話が行われているのかをモデル化しました。

セルフ1は自己評価を行い、セルフ2は実際のプレイを司ります。理想通りのプレイができないのはセルフ1の影響であり、過剰な指令が原因だとしています。

例えば、「ボールをよく見ろ」という指示は抽象的です。そこで、「ボールの縫い目はどの方向に回転しているか?」という質問をすると、プレイヤーはボールを見ることに集中し始めます。

このようにセルフ2がベストな行動を取れるように、セルフ1の過剰な働きを抑えていきます。

向いている人

インナーゲームコーチングが向いている人は以下の通りです。

  • スポーツの分野で結果を出したい人
  • ビジネスにおいて卓越した結果を出したい人
  • 本番に強くなりたい人

インナーゲームコーチングは、結果を出すことに焦点を向けたコーチングです。テニスプレイヤーだけでなく、あらゆるスポーツやビジネスの分野にまで応用されるようになりました。

プレッシャーのかかる場面で自分のパフォーマンスが発揮できない人におすすめです。

8.認知科学に基づくコーチング

最後に、認知科学に基づくコーチングについて解説します。

理論の特徴

認知科学に基づくコーチングとは、脳の仕組みを利用したコーチング理論です。

目標達成において挫折する要因の一つに「継続できないこと」が挙げられます。この問題を認知科学を用いて改善し、理想の行動へと変化させることが目的です。

例えば、ダイエット中に「お菓子を見る」という行動では、さまざまな思考や感情が生まれます。

「美味しそう」という思考が生まれれば、食べるか我慢するかの二択になります。しかし、「カロリーが高い」「味が濃く感じる」などの思考が湧けば、食べないという選択ができるでしょう。

このように、目標達成に対して適切な行動を、無意識に選択できるようにしていきます。

向いている人

認知科学に基づくコーチングが向いている人は以下の通りです。

  • 目標設定しても挫折しやすい人
  • 誘惑に負けやすい人
  • 現状に不満がある人

認知科学に基づくコーチングでは、クライアントの過去と向き合い、才能を言語化するのが特徴です。コーチがクライアントの強み、才能を引き出すことで、自信が持てるようになるでしょう。

また、今まで目標設定しても結果が出なかった人は、自身の内部モデルに問題があったと考えます。

「何かを見る→行動」までの間の情報を変えない限り、具体的なノウハウや方法があっても続かないと考えるのが特徴です。

理論を理解してコーチングを取り入れましょう

代表的なコーチング理論を8つ紹介しました。

どのコーチング理論も、クライアントの目標達成という点で目的は同じです。しかし、コーチはクライアントに対して具体的な答えは与えません。

コーチングでは、「クライアント自身が気づく」というプロセスを重視しているため、結果が出るまでに時間がかかります。大きな目標を掲げるのであれば、自分にあったコーチング理論を見つけることが重要です。

また、信頼できるコーチに依頼することも欠かせません。それぞれの理論には特徴があるため、自分にあったものを見つけていきましょう。