コーチングでは、「コミュニケーション能力」が重要です。しかし、「どのように行えばいいのか分からない」「コミュニケーションをうまくとる方法が分からない」という方が多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、コーチングにおけるコミュニケーションのポイントと、具体的なコミュニケーション方法、そしてコミュニケーション能力を向上させるスキルを詳しく解説します。
コーチングでのコミュニケーション方法について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
コーチングにおけるコミュニケーションとは
コーチングとは、観察や傾聴、質問などをとおして、相手の内面にある答えを引き出す目標達成の手法です。コーチングではコミュニケーションが重要な役割を果たします。
まずは、コーチングにおけるコミュニケーションの目的やトレーニングについて確認していきましょう。
コーチングにおけるコミュニケーションの目的
コーチングにおけるコミュニケーションの目的は、クライアントの気持ちや情報を共有することです。そのためには、クライアントが本音で話せる環境が必要となります。
本音で話しあいができないと、コミュニケーションが不十分になり、クライアントが本当に望んでいることが分からなくなってしまいます。
コーチングを実施するときには、相手が緊張して話せないといったことがないように、本音で話しやすく、発言しやすい雰囲気を作ることが大切です。
コーチングにおけるコミュニケーションのトレーニング
コーチングにおけるコミュニケーションは、トレーニングによって磨かれます。トレーニングするうえで重要なのは、「聴く力」を鍛えることです。
「聴く力」と聞くと、「相手の話を聴いていればいいだけ」だと思うかもしれませんが、そうではありません。いかにクライアントの気持ち、抱えている悩みや不安を引き出せるかがポイントになります。
また、クライアントの本音を引き出すためには、信頼関係の構築が重要です。お互いが信頼している関係になってはじめて、自分のいいたいことを正直にいえるようになります。
さらに、「聴く力」をさらに強化するためには、傾聴力、質問力、フィードバック力も磨かなければいけません。単に「聴く力」といっても、さまざまな要素が絡んでくるのです。
コーチングにおけるコミュニケーションのポイント
コーチングにおけるコミュニケーションでは、「聴く」「伝える」「承認する」「質問をする」を、いかによいタイミングでスムーズに行うかがポイントとなります。
相手の話を聴く
コーチングにおけるコミュニケーションで特に大事なのが、相手の話を「聴く」スキルです。ここでは、聴くスキルを理解するために、3つの「きく」について違いを比べてみましょう。
まず、「聞く」は相手の話を特に意識せずに、何となく聞くことです。「訊く」は、自分が知りたいことや分からないことを相手に尋ねること。そして、「聴く」は相手の気持ちや、言葉になっていない感情までも理解しようとし、集中して聴くことを意味します。
「聴く」の場合、相手の表情や言葉遣い、声のトーン、息遣いなどのさまざまな情報を加味しながら、相手の話の本質を引き出していきます。
クライアントが話しやすい雰囲気を作り、すべての動作を含めて、クライアントのことを深く理解しようとする力が必要です。
自分の伝えたいことを相手に伝える
クライアントの話を聴いたら、今度は自分の思いを相手に伝えなければいけません。コミュニケーションは、双方向の「聴く」と「伝える」がともにできてはじめて成立するものです。
自分の思いを伝える際にポイントになるのは、「主語をはっきりさせること」です。日本語では主語が省かれることが多いですが、主語がはっきりすることで明確にメッセージが伝わりやすくなります。
具体的には、「私」とはっきりいいましょう。これをアイメッセージともいいますが、メリットとして次のようなことがあります。
- 比較的冷静でニュートラルに話ができる
- 自分の正直な気持ちが伝わる
- お互いの立場が尊重され、信頼関係が作れる
主語というと「あなた」という言葉を使う場合もありますが、「あなた」を使うことにはデメリットがあります。
- 威圧的な伝え方になる恐れがある
- 感情的な対応を引き出して、怒りや反抗心が芽生える可能性がある
- 指示的な言い方になってしまい、相手に考える余裕を与えない
そのため、自分の思いを相手に伝える場合は、アイメッセージを使うのがおすすめです。信頼関係を元に、相手に自分の気持ちが伝わりやすくなります。
相手の長所を見つけて承認する
次のポイントは、相手の長所を見つけて承認することです。人が一番辛く感じるのは、「だれにも認められないこと」のため、承認してくれる人がいればモチベーションが上がります。
例えば、職場で上司や周囲の人が自分の仕事への取組み、業績を認めてくれれば、気分が上向きになるでしょう。それがさらなる意欲を生み出し、仕事の効率もアップします。
以下で、承認の仕方のポイントを見てみましょう。
- 存在を承認する
- 努力やプロセス、言動を承認する
- 変化や成長を承認する
- 成果を承認する
承認はおだてたり、機嫌をとったりするのではなく、相手の長所をしっかり認めているという気持ちで、ストレートに伝えることが大切です。
やる気や行動力を引き出す質問をする
コーチングにおけるコミュニケーションで鍵になるのが質問力です。相手のやる気や行動力を引き出すような質問をしなければいけません。
質のよい質問ができれば、クライアントは質問内容をよく考え、課題解決のためのアイデア、情報を探し、適切な回答を見つけようとします。その過程で、自身で考える力も身につき、成長にもつながっていきます。
また、よい質問をするためのポイントは、相手から答えを引き出すような質問です。
YES or NOで答えるクローズドクエスチョンよりも、オープンクエスチョン形式で相手が自由に答えられるようにし、自分の力で新しい気づきや発見が見つかるように導くことがポイントとなります。
コーチングにおけるコミュニケーションの方法
コミュニケーションのポイントが分かったら、いかにして実践していくかが重要となります。
ここでは、コーチングでの具体的なコミュニケーション方法について紹介します。
ステップ1. スムーズに会話できるように場を和ませる
まずは、スムーズに会話ができるよう場を和ませましょう。いきなり本題に入るのではなく、天気の話や笑い話、日常の話題などを取り上げながら、クライアントをリラックスさせてください。
リラックスした状態になれば、自分の本音や気持ちを話しやすくなります。
また、今日のコーチングによって何を得たいのか、何を解決したいのかも確認しておくとよいでしょう。
ステップ2. 目標やゴールを明確にする
コーチングをするうえで大切なのが、目標やゴールを明確にしておくことです。
コーチングはクライアントの目的を達成するための手法です。当然その背景には「○○をしたい」という気持ちが隠されています。
そのため、次のように質問してみましょう。
「今の目標は何ですか」
ここで一つの目標が見つかるでしょうが、さらに内容を深めるために4W1Hなどの質問を繰り返します。例えば、次のような質問をしてみてください。
- 話を深堀する質問:「それで」「それから」
- 具体化する質問:「例えば」「具体的には」
- 仮定する質問:「もしそれができたら……」
- 制限を広げる質問:「あえて○○すると」
- 意識を未来に向ける質問:「どうすればできますか」
- 数値化する質問:「どれくらい」
上記はほんの数例ですが、目標やゴールを明確化するために、具体的な質問を考えてみましょう。
ステップ3. 現状の課題や問題を把握する
続いて、現状の課題や問題を把握します。コーチングでは、「こうなりたいけれど、現状はなっていない」という課題解決を目指すからです。
「今困っていることは何ですか」という質問で、課題を確認することもできます。
このように質問されると、クライアントは自分が現状で抱えている問題や悩みがいくつか思い浮かんでくるはずです。現状の課題や問題が見つかれば、次の段階に進んでいきます。
ステップ4. 現状と目標のギャップをはっきりさせる
現状の課題や問題が把握できたら、目指す目標とのギャップをはっきりさせましょう。ギャップが明確になると、そのギャップを埋めるために何が必要なのかも見出しやすくなります。
そのため、「現実を理想のゴールに近づけるためには、何が必要でしょうか」という質問をしてみましょう。
また、次のような質問をして理想像へ向けての目標を数値化する質問もおすすめです。
「理想の目標が10点満点だとすると、今どのくらいに位置していますか」
「1ランク上げるには、何が必要でしょうか」
ステップ5. ギャップを無くすための行動を決める
現状の課題と目標とのギャップがはっきりしたら、ギャップを埋めるための行動を決めます。課題も問題も行動によって解決するからです。
どのように行動すればいいのか、その内容を上手に引き出す質問をしてみましょう。
「理想の目標に近づけるためには、どんなことを頑張ればいいでしょうか」
ここでも数値化の質問が効果的です。
「現状から1点ポイントを上げるためには、何ができるでしょうか」
ここであげる「できること」には、「小さな行動でもいい」という点を話しましょう。
はじめから大きな行動が必要なことを目標にしてしまうと叶わなくなってしまいます。目標達成のために、小さな行動を少しずつ積み重ねていくことを提案しましょう。
コーチングにおけるコミュニケーション能力を向上させるスキル
コーチングのコミュニケーション能力を向上させるには、どのようなスキルがあればよいのでしょうか?
ここでは、コーチングにおけるコミュニケーションをスムーズにするためのスキルについて解説します。
安心感を生み出す「ペーシング」
コーチングにおけるコミュニケーション能力の向上には、「ペーシング」を心がけてみましょう。
「ペーシング」とは、クライアントのペースにあわせることをいいます。話すスピード、声のトーン、使う言葉などをクライアントのペースにあわせることを意識してください。
また、「ペーシング」は、相手に安心感を感じさせ、警戒心を薄めるメリットがあります。人は「自分と違う」と感じてしまうと、孤立への恐怖や対立への危険性を感じやすくなります。
その気持ちを和らげるために、ペーシングを使って安心させることがポイントです。
話しやすい雰囲気をつくり出す「ノンバーバル」
次に「ノンバーバル・コミュニケーション」を意識してみましょう。「ノンバーバル・コミュニケーション」とは、言葉以外のもので伝えるコミュニケーションです。
具体的には、話し方(口調、抑揚、語調の強弱など)、ボディランゲージ(表情、身振り手振り、姿勢など)によるコミュニケーションを指します。
例えば、「素晴らしいですね」といったときに、暗い表情をしていたり、眉間にしわを寄せていたり、パソコン作業をしていたりでは、相手に気持ちが伝わりません。言葉にあわせて、顔の表情や態度もあわせることが大切です。
「ノンバーバル・コミュニケーション」は言葉以上の意味を持つこともあり、上手に使うことで、相手も話しやすい雰囲気になります。
味方であることを伝える「アクノレッジメント」
「アクノレッジメント」も、コーチングにおけるコミュニケーションを向上させるスキルです。
「アクノレッジメント」とは、成長や成果に気づき、気づいたことをクライアントに伝えて、相手の存在を承認することです。「アクノレッジメント」により、クライアントに味方であることを伝えられます。
その結果、クライアントは安心感を覚え、信頼関係の構築につながります。信頼関係が構築されれば、コミュニケーションもとりやすくなるでしょう。
「アクノレッジメント」の具体例を、いくつかあげます。
- 挨拶する
- 名前を呼ぶ
- 目をあわせる
- 相手のほうに体を向けて話す
- こちらから話しかける
- 相手が話したいことを聞く(自分中心にならない)
- ねぎらう
- 感謝する
どれも基本的なことですが、ここからコミュニケーションが深まっていきます。
会話のボールをしっかり受け止めて「聴く」
コミュニケーションというと、「話す」ことが重要に思うかもしれませんが、それ以上に「聴く」ことも重要です。会話のボールをしっかり受け止めましょう。
「聴く」ことが重要であることは分かっていても、実際には相手の話を聴きながら、次にいうべきことを考えたり、相手の話を思わず否定してしまったりすることはよくあることです。
相手の話を「聴く」ためのポイントをいくつか紹介します。
- 相手の話を遮らない
- 自分が次に話すことを考えない
- 自分の考えは脇に置く
- 自己判断しない
- 相手の話をうまく理解できたか、時々確認をする
- 分からない部分はもう一度話してもらう
このような態度で臨めば、相手の話をしっかり受け止められ、コミュニケーションが進むでしょう。
相手と場にあわせて効果的に使い分ける「質問」
コミュニケーションをはかるうえで、重要な役割を果たすのが質問です。相手と場にあわせて使い分けをしてみましょう。
基本的にコーチングでは、オープンクエスチョン形式がいいとされています。オープンクエスチョン形式とは、相手が答える範囲に制約を作らず、自由に答えてもらう方式です。
一方、クローズドクエスチョンという方式もあります。クローズドクエスチョンは、YES or NO形式で答えてもらう質問方法です。
知りあって間もない相手の場合は、オープンクエスチョン方式よりもクローズドクエスチョン方式のほうが答えやすい場合もあります。
どちらを選ぶべきかは、状況や相手のタイプ、会話の進展状況などによっても変わってくるため、効果的に使い分ける必要があります。
「間」を提供する「沈黙」
コミュニケーションにおいては、「間」も重要な役割を果たします。会話がとめどなく続けばいいというものではありません。
会話における「間」は沈黙の時間になりますが、次のような働きをしてくれます。
- 情報を整理、咀嚼する時間ができる
- 自分の考えていることを整理する時間ができる
- いいたい言葉を探す時間ができる
- 本当にいいたいことを見つける時間ができる
- 何かに気づくことがある
「間」が長すぎると、居心地が悪く感じますが、適度な「間」はかえってコミュニケーションを進めやすくします。
また、「間」をとってあげるときは、「ゆっくり考えてください。待っています」といってあげると、相手も落ち着きます。
相手に返す「フィードバック」
会話のキャッチボールでは、クライアントに返す「フィードバック」も重要です。クライアントも自分が行ったことに対して、どのような反応があるか不安に思うことがあります。
「しっかり話を聴いてくれているだろうか」「どう感じているだろうか」、あるいは「気に障ることをいったかな」などを気にしているものです。
そのようなときに効果的にフィードバックをしてあげれば、相手は安心し、そのまま話を続けられます。自分が話しているときは相手にフィードバックを求め、相手が話している内容については確認のフィードバックをしてください。
また、うなずきや相槌もフィードバックの一部になります。言葉によるフィードバックではありませんが、相手に話をしっかり聴いているというメッセージを伝える有効な手段です。
キャッチボールを活性化させる「リクエスト」
「リクエスト」や「提案」は、会話のキャッチボールを活性化してくれます。「こんな風にしてみてはいかがでしょうか」「このようにしていただきたいのですが」と問いかけることで、相手もその「リクエスト」をヒントや刺激として新たな着想を得ることがあります。
ただし、「リクエスト」や「提案」をする場合に気を付けたいのが、だしぬけにならないことです。いきなり「こうしてほしいのですが」といわれれば、相手も戸惑います。会話のキャッチボールをしながら、同意を得たうえで、「リクエスト」や「提案」をしてください。
また、必ず「リクエスト」や「提案」に対して、肯定的な答えが返ってくるとは限りません。「NO」といわれても止まらず、その際はまた次の会話に進めていくとよいでしょう。
コミュニケーションのポイントを理解してコーチングを取り入れましょう
コーチングにおけるコミュニケーション方法やスキルについて解説しました。
コーチングは、相手といかにコミュニケーションをとるのかが重要です。そのためにも、コミュニケーションのポイントを押さえ、方法を理解し、スキルを向上させる必要があります。
紹介したポイントはどれも、コーチングを行ううえでとても重要な要素となるため、スキルをしっかり習得し、コーチングコミュニケーションをはかってください。